手水之縁:本文 平敷屋朝敏作
人物
山戸
玉津
志喜屋の大屋子
山口の西掟
門番
山戸 出羽 歌
春(はる)や野(ぬ)ん山(やま)ん
百合(ゆい)ぬ花盛(はなざか)り
行(い)ち添(すぃ)ゆる袖(すでぃ)ぬ
匂(にうぃ)ぬ麗(しゅら)しゃ
山戸
吾(わん)や島尻(しまじり)ぬ
波平大主(ふぁんじゃうふぬし)ぬ
生(な)し子(ぐぁ)山戸(やまとぅう)ゆ
今日(ちゅう)や上下(かみしむ)ん遊(あすぃ)ぶ
三月(さんぐぁつぃ)ぬ三日(みっちゃ)
薄風(うすかじ)ん涼(すぃだ)しゃ
瀬長山(しながやま)登(ぬぶ)てぃ
花眺(はななが)み為(すぃ)らに
花(はな)取(とぅ)やい遊(あすぃ)ば
世間(しきん)鳴響(とぅゆ)まりる
瀬長山(しながやま)見(み)りば
花(はな)や咲(さ)ち清(ぢゅ)らさ
匂(にうぅ)い麗(しゅら)しゃ
此処(くま)に足(あし)淀(ゆどぅ)でぃ
花眺(はななが)み為(すぃ)らに
玉津 出羽 歌
三月(さんぐぁつぃ)が成(な)りば
心(くくる)浮(う)かさりてぃ
波平(ふぁんじゃ)玉川(たまがわ)に
髪(かしら)洗(あら)わ
玉津
今(なま)出(ぃん)じる吾(わん)や
知念(ちにん)山口(やまぐち)ぬ
盛小屋(むりくや)ぬ一人子(ちゅいぐぁ)
玉津(たまつぃい)どぅ有(や)ゆる
三月(さんぐぁつぃ)が成(な)りば
心(くくる)浮(う)かさりてぃ
波平(ふぁんじゃ)玉川(たまがわ)に
髪(かしら)洗(あら)わ
歌
波平(ふぁんじゃ)玉川(たまがわ)ぬ
流(なが)りゆる水(みずぃ)に
涼(すぃだ)涼(すぃだ)とぅ髪(かしら)
洗(あら)てぃ戻(むどぅ)ら
山戸
花(はな)ん眺(なが)みたい
急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)ら
やあ、やあ、
余(あま)り水(みずぃ)欲(ふ)しゃぬ
耐(すぃじ)ららん有(あ)むぬ
無蔵(んぞ)ゆ御情(うなさ)きに
飲(ぬ)まち給(たぼ)り
柄杓(ふぃしゃく)から給(たべ)る
情(なさ)きどぅん有(や)らば
迚(とぅてぃ)ん飲(ぬ)み欲(ぶ)しゃや
無蔵(んぞ)が手水(てぃみずぃ)
玉津
見(み)ずぃ知(し)らずぃ里前(さとぅめ)
手水(てぃみずぃ)てぃすぃ知(し)らん
貴無(あてぃな)しゆ而者(でむぬ)
許(ゆる)ち給(たぼ)り
山戸
昔(んかし)手(てぃ)に汲(く)だる
情(なさ)きから出(ぃん)じてぃ
今(なま)に流(なが)りゆる
許田(ちゅだ)ぬ手水(てぃみずぃ)
玉津
水(みずぃ)欲(ふ)しゃや名付(なづぃ)き
戯(たふぁふ)りどぅ有(や)ゆる
他所(ゆす)ぬ目(み)ぬ繁(しぢ)さ
急(いす)ぢ行(い)かに
山戸
露(つぃゆ)でんすぃ踏(くだ)てぃ
草(くさ)とぅ縁(いん)結(むすぃ)ぶ
無蔵(んぞ)手水(てぃみずぃ)飲(ぬ)まん
戻(むでぃ)てぃ行(い)かゆいや
迚(とぅてぃ)ん此(く)ぬ川(かわ)に
我身(わみ)や捨(すぃ)てぃら
玉津
やあ、やあ、
命(ぬち)捨(すぃ)てぃる程(ふどぅ)ぬ
事(くとぅ)ゆ又(また)有(や)らば
御恥(うふぁ)ずぃかしゃ有(あ)てぃん
手水(てぃみずぃ)上(あ)ぎら
山戸
ああ、尊(とお)とぅ
此(く)ぬ川(かわ)に頼(たゆ)てぃ
手水(てぃみずぃ)飲(ぬ)む事(くとぅ)や
天(てぃん)ぬ引合(ふぃちゃわ)しか
神(かみ)ぬ御助(うたし)きか
歌(うた)に鳴響(とぅゆ)まりる
知念(ちにん)山口(やまぐち)ぬ
盛小屋(むりくや)ぬ一人子(ちゅいぐぁ)
玉津(たまつぃい)が有(や)ゆら
闇(やみ)ぬ夜(ゆ)ぬ烏(がらし)
鳴(な)かん物(むぬ)知(し)ゆみ
言(い)やば聞(ち)ち給(たぼ)り
数(かずぃ)成(な)らん吾(わん)や
波平大主(ふぁんじゃうふぬし)ぬ
生(な)し子(ぐぁ)山戸(やまとぅう)ゆ
無蔵(んぞ)が名(な)ゆ語(かた)り
住(すぃ)まい屋戸(やどぅ)聞(ち)かし
他所(ゆす)知(し)らん事(ぐとぅ)に
闇(やみ)に紛(まぢ)りやい
忍(しぬ)ぶ道(みち)隠(かく)ち
尋(とぅ)めてぃ拝(うぅ)がま
玉津
人(ふぃとぅ)紛(まげ)や有(あ)らみ
見(み)ずぃ知(し)らずぃ里前(さとぅめ)
浮世(うちゆ)てぃし知(し)らん
恋(くい)ぬ道(みち)知(し)らん
貴無(あてぃな)しゆ而(で)むぬ
許(ゆる)ち給(たぼ)り
山戸
あきよ、自由(じゆ)成(な)らん
事(くとぅ)ゆ又(また)有(や)らば
匂(にうぃ)や添(ちょ)ん袖(すでぃ)に
移(うちゅ)ち給(たぼ)り
面影(うむかぢ)や死出(しでぃ)ぬ
土産(みやぎ)為侍(しゃび)ら
玉津
隠(かく)ち隠(かく)さりみ
今(にゃ)復(ま)た現(あら)わりら
召(みしぇ)る事(ぐとぅ)吾(わん)や
知念(ちにん)山口(やまぐち)ぬ
盛小屋(むりくや)ぬ一人子(ちゅいぐぁ)
玉津(たまつぃい)どぅ有(や)ゆる
拝(うぅが)み欲(ぶ)しゃ有(あ)てぃん
七重(なない)竹垣(まし)内(うち)に
莟(つぃぶ)でぃ居(うぅ)る我身(わみ)ぬ
外(ふか)に枝(いぃだ)出(ぃん)じゃち
花(はな)咲(さ)ちゅる節(しち)ん
有(あ)いが然侍(しゃび)ら
山戸
無蔵(んぞ)が言(ぃゆ)る事(くとぅ)や
如何(いか)な天竺(てぃんじく)ぬ
鬼立(うにた)ちぬ御門(うじょ)ん
恋(くい)ぬ道(みち)有(や)りば
開(あ)ちどぅ為(しゅ)ゆる
玉津
此(く)ぬ川(かわ)ぬ習(なれ)や
人(ふぃとぅ)繁(しじ)さ有(あ)むぬ
急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)てぃ
復(ま)たん拝(うぅが)ま
山戸
約束(やくすく)ゆ違(たご)な
偽(いつぃわ)りゆ為(すぃ)るな
今日(ちゅう)や立(た)ち戻(むどぅ)てぃ
復(ま)たん拝(うぅが)ま
歌
別(わか)りてぃん互(たげ)に
御縁(ぐいん)有(あ)てぃからや
糸(いとぅ)に抜(ぬ)く花(はな)ぬ
切(ち)りてぃ退(ぬ)ちゅみ
山戸 出羽 歌
忍(しぬ)でぃ行(い)く心(くくる)
他所(ゆす)や知(し)らに共(どぅむ)
笠(かさ)に顔(かうぅ)隠(かく)す
恋(くい)ぬ習(なれ)や
山戸
手水(てぃみずぃ)為(しゃ)る情(なさ)き
思(うむ)い増(ま)すぃ鏡(かがみ)
面影(うむかぢ)に匂(にうぅ)い
立(た)ちゅが心気(しんち)
恋(くい)に踏(ふ)み迷(まゆ)てぃ
焦(く)がり死(し)ぬ事(くとぅ)や
昔(んかし)物語(むぬがたい)
他所(ゆす)ぬ上(ぅうぃ)どぅ聞(ち)ちゅる
糸柳(いとぅやなぢ)枝(いぃだ)に
桜花(さくらばな)咲(さ)かち
梅(んみ)ぬ匂(にうぃ)立(た)ちゅる
無蔵(んぞ)が御情(うなさ)きに
波平川(ふぁんじゃが)ぬ手水(てぃみずぃ)
胸(むに)に飲(ぬ)み染(す)みてぃ
波(なみ)ぬ夜昼(ゆるふぃる)ん
眠(にぶ)る目(み)ん寝(に)らん
鳥(とぅい)とぅ諸共(むるとぅむ)に
鳴(な)ち明(あ)かち居(うぅ)りば
朝夕(あさゆ)我(わ)が袖(すでぃ)や
波下(なみした)ぬ干瀬(ふぃし)か
乾(かわ)く間(ま)や無(ね)さみ
濡(ぬ)りる心気(しんち)
野山(ぬやま)越(くぃ)る道(みち)や
幾里(いくり)隔(ふぃぢゃ)みてぃん
闇(やみ)に紛(まぢ)り合(や)い
忍(しぬ)でぃ行(い)ちゅん
歌
野山(ぬやま)越(くぃ)る道(みち)や
幾里(いくり)隔(ふぃぢゃ)みてぃん
闇(やみ)に紛(まぢ)り合(や)い
忍(しぬ)でぃ行(い)ちゅん
山戸
闇(やみ)ぬ夜(ゆ)ぬ人(ふぃとぅ)ん
寝静(にしずぃ)まてぃ居(うぅ)むん
御門(うじょ)に出(ぃん)じ召(み)しょり
思(うむ)い語(かた)ら
歌
暮(く)らさらん
忍(しぬ)でぃ来(ちゃ)る
御門(うじょ)に出(ぃん)じ召(み)しょり
思(うむ)い語(かた)ら
玉津
闇(やみ)に唯(ただ)一人(ふぃちゅい)
忍(しぬ)でぃ参(め)る心(くくる)
兼(か)にてぃ知(し)る我身(わみ)ぬ
御待(うま)ち苦(ぐり)しゃ
山戸
やあ、思(う)み無蔵(んぞ)ゆ
面影(うむかぢ)とぅ匂(にうぅ)い
立(た)ち増(ま)さい増(ま)さてぃ
暮(く)らさらん有(あ)てぃどぅ
尋(とぅ)めてぃ来(ち)ちゃる
玉津
やあ、思(う)み里(さとぅ)ゆ
此間(くま)や人(ふぃとぅ)繁(しぢ)さ
内(うち)に入(い)り召(み)しょり
哀(あわ)り此(く)ぬ間(ぅうぇだ)ぬ
思(うむ)い語(かた)ら
歌 述懐
結(むす)でぃ置(う)く契(ちぢ)り
此(く)ぬ世(ゆ)迄(までぃ)とぅ思(む)な
変(か)わるなよ互(たげ)に
彼(あ)ぬ世(ゆ)迄(までぃ)ん
* * * * *
門番
誰(た)がし夜深(ゆぶか)くに
殿地(とぅぬち)踏(ふ)み入(い)ゆし
名乗(なぬ)ゆらば名乗(なぬ)り
切(ち)り殺(くる)ち取(とぅ)らさ
山戸
寝覚(にざ)み驚(うどぅる)ちに
慌(あわ)てぃるな男(うぅとぅく)
花(はな)ぬ上(ぅうぃ)ぬ蝶(はびる)
禁止(ちじ)ぬ成(な)ゆみ
闇(やみ)に唯(ただ)一人(ふぃちゅい)
忍(しぬ)でぃ来(く)る許(ばか)り
名指(なざ)し為(しゅ)み番手(ばんでぃ)
心(くくる)有(あ)る我身(わみ)ぬ
掛(か)か寄(ゆ)らば掛(か)かり
切(ち)り殺(くる)ち捨(すぃ)てぃら
門番
はあ、恋(くい)ぬ竹垣(まし)番手(ばんてぃ)
為(しゅ)る者(むぬ)や有(あ)らん
大事(でじ)然(さ)らみ我身(わみ)や
急(いす)ぢ退(ぬ)ぎら
山戸
無蔵(んぞ)とぅ我(わ)が仲(なか)ぬ
忍(しぬ)び現(あらわ)りてぃ
明日(あちゃ)や無蔵(んぞ)責(し)みぬ
有(あ)ゆらとぅ思(み)ば
嵐声(あらしぐぃ)ぬ有(あ)らば
無蔵(んぞ)一人(ふぃちゅい)成(な)しゅみ
吾(わぬ)ん諸共(むるとぅむ)に
成(な)らん為(しゅ)むぬ
歌
嵐声(あらしぐぃ)ぬ有(あ)らば
無蔵(んぞ)一人(ふぃちゅい)成(な)しゅみ
吾(わぬ)ん諸共(むるとぅむ)に
成(な)らん為(しゅ)むぬ
* * * * *
志喜屋の大屋子
盛小屋(むりくや)ぬ大主(うふぬし)ぬ
頭役(かしらやく)聞(ち)ちゅる
志喜屋(しちゃ)ぬ大屋子(うふやくう)
はあ、大主(うふぬし)ぬ思(う)み子(ぐぁ)
花(はな)ぬ真玉津(まだまつぃ)どぅ
越(くぃ)た月(つぃち)ぬ三日(みっちゃ)
波平川(ふぁんじゃが)に降(う)りてぃ
髪洗(かしらあれ)名付(なづぃ)き
波平(ふぁんじゃ)真山戸(めえまとぅ)とぅ
恋忍(くいしぬ)ぶ事(くとぅ)ぬ
他所(ゆす)に現(あらわ)りてぃ
隠(かく)ち隠(かく)さらん
世間(しきん)口舌(くちしば)に
語(かた)てぃ居(うぅ)んてぃ有(や)り
我身(わみ)ぬ大主(うふぬし)に
知(し)らし部(び)ぬ有(あ)とぅてぃ
知念浜(ちにんばま)出(ぃん)じゃち
一刀(ちゅかたな)に殺(くる)ち
只今(ただいま)ぬ御返事(ぐふぃじ)
美御宣(みゅんにゅ)きりてぃ有(や)り
御事付(うとぅづぃ)きぬ有(あ)りば
肝苦(ちむぐり)しゃ有(あ)てぃん
今(にゃ)復(ま)た如何(ちゃ)何(ぬ)為(さ)りが
仰(ぅうぃい)すぃ事(ぐとぅ)儘(まま)に
為(すぃ)らな成(な)ゆみ
山口の西掟
はあ、召(み)しぇる如(ぐとぅ)
我身(わみ)ん百隠(むむかく)し
隠(かく)さてい為(しゃ)すぃが
我身(わみ)ぬ大主(うふぬし)に
知(し)らし部(び)ぬ有(あ)りば
肝苦(ちむぐり)しゃ有(あ)てぃん
為(すぃ)らな成(な)ゆみ
志喜屋の大屋子
やあ、西掟(にしんち)
其(う)り其(う)りぬ用意(ゆうい)
急(いす)ぢ為(し)ちからに
夜深(ゆぶか)くぬ内(うち)に
連(つぃ)り上(あ)ぎてぃ行(い)かに
山口の西掟
拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ
* * * * *
山戸 出羽 歌
あきよ、真玉津(まだまつぃ)や
殺(くる)さりんてぃ有(や)り
尋(とぅ)めてぃ諸共(むるとぅむ)に
成(な)らん為(しゅ)むぬ
山戸
哀(あわ)り真玉津(まだまつぃ)や
他所目(ゆすみ)間処(まどぅ)計(はか)てぃ
知念浜(ちにんばま)出(ぃん)じゃち
殺(くる)さ為(しゅ)んてぃ有(や)り
他所(ゆす)告(つぃ)ぎぬ有(あ)とぅてぃ
今(なま)どぅ吾(わ)ね聞(ち)ちゅる
無蔵(んぞ)ゆ先(さち)立(だ)てぃてぃ
世間(しけ)に居(うぅ)てぃ何(ぬ)為(しゅ)が
尋(とぅ)めてぃ諸共(むるとぅむ)に
成(な)らん為(しゅ)むぬ (間)
道中(みちなか)が有(や)ゆら
殺(くる)さりが為(し)ちゃら
肝(ちむ)急(いす)ぢ歩(あゆ)でぃ
生目(いちみ)拝(うぅ)がま
道行 歌
道中(みちなか)が有(や)ゆら
殺(くる)さりが為(し)ちゃら
肝(ちむ)急(いす)ぢ歩(あゆ)でぃ
生目(いちみ)拝(うぅ)がま
玉津 出羽 歌
里(さとぅ)とぅ我(わ)が仲(なか)ぬ
忍(しぬ)び現(あらわ)りてぃ
今(にゃ)復(ま)た自由(じゆ)成(な)らん
死出(しでぃ)が山道(やまみち)に
里前(さとぅめ)振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ
行(い)ちゅる際(ちわ)でむぬ
恋(くい)ぬ氏神(うじがみ)ぬ
誠(まくとぅ)どぅん有(あ)らば
玉黄金(たまくがに)里(さとぅ)に
知(し)らち給(たぼ)り
志喜屋の大屋子
とおとお、知念浜(ちにんばま)着(つぃ)ちゃん
やあ、思(う)み子(ぐぁ)
極(ちわ)まとぅる事(くとぅ)ぬ
今(にゃ)復(ま)た如何(ちゃ)何(ぬ)為(さ)りが
心(くくる)安々(やすぃやすぃ)とぅ
彼(あ)ぬ世(ゆ)行参(いも)り
玉津
捨(すぃ)てぃる身(み)が命(いぬち)
露(つぃゆ)程(ふどぅ)ん思(うま)ん
残(ぬく)る思(う)み里(さとぅ)や
如何(いちゃ)が為(しゅ)ゆら
山口の西掟
惜(あた)ら花盛(はなざか)り
莟(つぃぶ)でぃ居(うぅ)る内(うち)に
玉(たま)ぬ身(み)わ散(ち)らす
事(くとぅ)ぬ恨(ら)みしゃ
志喜屋の大屋子
やあ、西掟(にしんち)
他所目(ゆすみ)無(ね)ん内(うち)に
急(いす)ぢ済(すぃ)ますぃ
山口の西掟
拝(うぅが)ん留(とう)み有侍(やび)てぃ
玉津
やあ、志喜屋(しちゃ)ぬ大屋子(うふやくう)
山口(やまぐち)ぬ西掟(にしんち)
此(く)ぬ世(ゆ)振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ
行(い)ちゅる際(ちわ)でむぬ
恥(はじ)ん振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ
言(い)やば聞(ち)ち給(たぼ)り
生(い)ちちゅりば苦(くり)しゃ
死(し)にば忘(わし)りゆら
片時(かたとぅち)ん彼(あ)ぬ世(ゆ)
急(いす)ぢ欲(ぶ)しゃ有(あ)すぃが
復(ま)たとぅ此(く)ぬ世界(しけ)や
拝(うぅ)がまらん有(あ)りば
哀(あわ)り思(う)む事(くとぅ)ぬ
尽(つぃく)さらん有(あ)すぃが
死(し)にゅる我(わ)が命(いぬち)
露(つぃゆ)程(ふどぅ)ん思(う)まん
里(さとぅ)に言詞(いくとぅば)ぬ
気(ち)に掛(か)かかてぃ居(うぅ)むぬ
やあ、志喜屋(しちゃ)ぬ大屋子(うふやくう)
里(さとぅ)や花盛(はなざか)り
人(ふぃとぅ)勝(まさ)い有(や)りば
男(うぅとぅく)生(ぅん)まりたる
此(く)ぬ世界(しけ)ぬ印(しるし)
御主愛(うしゅがな)し御奉公(みゃでい)
夜昼(ゆるふぃる)ん召(み)しょち
天(てぃん)ぬ御定(うさだみ)ぬ
下(くだ)てぃ来(く)る時(とぅち)や
死出(しでぃ)が山道(やまみち)に
御待(うま)ち為(しゅ)んてぃ有(や)り
玉黄金(たまくがに)里(さとぅ)に
語(かた)てぃ給(たぼ)り
若(む)しか我(わ)が遺言(いぐん)
背(すむ)ち参(め)る有(や)らば
誠(まくとぅ)彼(あ)ぬ世界(しけ)ぬ
此(く)ぬ世(ゆ)如(ぐとぅ)有(あ)らば
出(ぃん)じてぃ里(さとぅ)一目(ちゅみ)ん
見(ん)だん筈(ふぁづぃ)でむぬ
細(くま)く里(さとぅ)肝(ちむ)に
染(す)みてぃ給(たぼ)り
志喜屋の大屋子
召(み)しぇる御言葉(うくとぅば)や
今日(ちゅう)過(すぃ)ぢてぃ明日(あちゃ)や
他所目(ゆすみ)間処(まどぅ)計(はか)てぃ
告(つぃ)ぎる筈(ふぁづぃ)でむぬ
心(くくる)安々(やすぃやすぃ)とぅ
彼(あ)ぬ世(ゆ)行参(いも)り
やあ、西掟(にしんち)
時(とぅち)移(うちゅ)ち済(すぃ)まん
急(いす)ぢ済(すぃ)ますぃ
山口の西掟
拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ
朝夕(あさゆ)守(む)い育(すだ)てぃ
為(し)ちゃる我(わ)が思(う)み子(ぐぁ)
義理(ぢり)とぅ思(む)てぃ如何(いちゃ)し
紅葉(むみじ)成(な)しゅが
歌
朝夕(あさゆ)守(む)い育(すだ)てぃ
為(し)ちゃる我(わ)が思(う)み子(ぐぁ)
義理(ぢり)とぅ思(む)てぃ如何(いちゃ)し
紅葉(むみじ)成(な)しゅが
山口の西掟
誠(まくとぅ)守(む)い育(すだ)てぃ
為(し)ちゃる我(わ)が思(う)み子(ぐぁ)
一刀(ちゅかたな)に切(ち)ゆる
肝(ちむ)ぬ忍(しぬ)ばらん
頼(たん)でぃ大屋子(うふやくう)
気張(ちば)てぃ給(たぼ)り
志喜屋の大屋子
いや、仰(ぅうぃい)すぃ事(ぐとぅ)有(や)りば
気張(ちば)り気張(ちば)り
山戸
やあ、やあ、
暫(しば)し待(ま)てぃ
やあ、思(う)み無蔵(んぞ)ゆ
山口の西掟
刀刃(かたなば)に障(さわ)る者(むぬ)や
何(ぬ)為(しゃ)る者(むぬ)が
志喜屋の大屋子
いや、何(ぬ)為(しゃ)る者(むぬ)が
山戸
哀(あわ)り知(し)り召(み)しょち
言(い)やば聞(ち)ち給(たぼ)り
数(かずぃ)成(な)らん我身(わみ)や
波平(ふぁんじゃ)山戸(やまとぅう)ゆ
余(あま)り盛小屋(むりくや)や
義理立(ぢりだ)てぃぬ多(うふぃ)さ
如何(いか)な天竺(てぃんじく)ぬ
鬼立(うにた)ちぬ御門(うじょ)ん
恋(くい)ぬ道(みち)有(や)りば
開(あ)ちどぅ為(しゅ)ゆる
やあ、志喜屋(しちゃ)ぬ大屋子(うふやくう)
山口(やまぐち)ぬ西掟(にしんち)
義理(ぢり)ん理(くとぅわり)ん
聞(ち)ち分(わ)きてぃ給(たぼ)り
昔(んかし)物語(むぬがたい)
百(むむ)伝(つぃた)い聞(ち)ちゅん
恋(くい)忍(しぬ)ぶ事(くとぅ)や
世間(しけ)に有(あ)る習(なら)い
愛(いとぅ)しさゆ召(み)しょち
愛(かな)しさゆ召(み)しょち
世間(しきん)取(とぅ)い沙汰(さた)ぬ
打(う)ち止(や)みゅる間(ぅうぇだ)や
百(むむ)隠(かく)し隠(かく)ち
知(し)らさ如(ぐとぅ)為(しゅ)むぬ
真玉津(まだまつぃ)が命(いぬち)
我身(わみ)に呉(くぃ)てぃ給(たぼ)り
やあ、やあ、
願(にが)てぃ自由(じゆ)成(な)らん
事(くとぅ)ゆ復(ま)た有(や)らば
我身(わみ)ん諸共(むるとぅむ)に
殺(くる)ち給(たぼ)り
志喜屋の大屋子
やあ、西掟
思(う)み付(つぃ)ちゃる事(くとぅ)ぬ
我身(わみ)に復(ま)た有(あ)ゆん
世間(しきん)口舌(くちしば)ん
時(とぅち)ぬ間(ま)どぅ有(や)ゆる
真玉津(まだまつぃ)が命(いぬち)
真山戸(めえまとぅ)に渡(わた)ち
殺(くる)ち来侍(ちゃあび)たんてい
御返事(ぐふぃじ)美御宣(みゅんにゅ)きてぃ
後(あとぅ)後(あとぅ)に成(な)らば
御肝(うぢむ)取(とぅ)い直(のお)ち
復(ま)たん世(ゆ)に出(ぃん)じゃち
花(はな)咲(さ)かちからに
玉(たま)ぬ糸(いとぅ)御縁(ぐいん)
結(むすぃ)ぶ然(さ)らみ
やあ、真山戸(めえまとぅ)ゆ
愛(いとぅ)しさゆ思(う)み子(ぐぁ)
愛(かな)しさゆ思(う)み子(ぐぁ)
一刀(ちゅかたな)に切(ち)ゆる
肝(ちむ)ぬ忍(しぬ)ばらん
真玉津(まだまつぃ)が命(いぬち)
渡(わた)す筈(ふぁづぃ)でむぬ
急(いす)ぢ引(ふぃ)ち連(つぃ)りてぃ
隠(かく)り有(や)い行参(いも)り
山戸
ああ、尊(とお)とぅ
二所(たとぅくる)が陰(かぢ)に
二人(たい)が命(ぬち)給(たぼ)ち
御恩(ぐうぅん)尊(とおとぅ)さや
言(い)ちん尽(つぃく)さらん
思(う)む事(くとぅ)や数多(あまた)
語(かた)れ欲(ぶ)しゃ有(あ)すぃが
鳥(とぃい)ん鳴(な)ち初(すぃ)みてぃ
軈(やが)てぃ夜(ゆ)ん明(あ)きる
御恩(ぐうぅん)御情(うなさ)きや
後(あとぅ)に送(うく)有侍(やび)ら
玉津
やあ、志喜屋(しちゃ)ぬ大屋子(うふやくう)
山口(やまぐち)ぬ西掟(にしんち)
二所(たとぅくる)ぬ御肝(うぢむ)
言(い)ちん尽(つぃく)さらん
御恩(ぐうん)御情(うなさ)きや
後(あとぅ)に送(うく)やびら
山口の西掟
やあ、思(う)み子(ぐぁ)
やあ、真山戸(めえまとぅ)ゆ
夢(ゆみ)程(ふどぅ)ん他所(ゆす)に
現(あらわ)りてぃからや
我達(わした)身(み)ぬ上(ぅうぃ)ん
大事(でじ)有(あ)らん為(しゅ)むぬ
夜深(ゆぶか)くぬ内(うち)に
急(いす)ぢ行参(いも)り
山戸
やあ、思(う)み無蔵(んぞ)ゆ
無蔵(んぞ)とぅ我(わ)が仲(なか)ぬ
忍(しぬ)び現(あらわ)りてぃ
他所目(ゆすみ)間処(まどぅ)計(はか)てぃ
殺(くる)さ為(しゅ)んてぃ有(や)り
他所(ゆす)告(つぃ)ぎぬ有(あ)とぅてぃ
尋(とぅ)めてぃ来(ち)ちゃる
思(う)む事(くとぅ)や適(かな)てぃ
生(い)ち目(み)口(ぐち)行会(いちゃ)てぃ
連(つぃ)りてぃ行(い)く事(くとぅ)や
夢(ゆみ)が有(や)ゆら
玉津
我身(わみ)ん此(く)ぬ事(くとぅ)や
言(い)ちん尽(つぃく)さらん
鳥(とぅい)ん鳴(な)ち初(すぃ)みてぃ
軈(やが)てぃ夜(ゆ)ん明(あ)きる
他所目(ゆすみ)無(ね)ん内(うち)に
急(いす)ぢ戻(むどぅ)有侍(やび)ら
山戸
とお、とお、
急(いす)ぢ行(い)かに
歌
鳥(とぅい)ん鳴(な)ち初(すぃ)みてぃ
軈(やが)てぃ夜(ゆ)ん明(あ)きる
他所目(ゆすみ)無(ね)ん内(うち)に
急(いす)ぢ戻(むどぅ)ら
歌
命(いぬち)救(すく)わりてぃ
連(つぃ)りてぃ行(い)く事(くとぅ)や
誠(まくとぅ)夢内(ゆみうち)ぬ
夢(ゆみ)が有(や)ゆら