花売の縁:本文 高宮城親雲上作

 

 歌

 

宵(ゆい)暁(あかつぃち)ん馴(な)りし俤(うむかぢ)

       立(た)たぬ日(ふぃ)や無(ね)さ塩屋(しゅや)煙(ちむり)

 

乙樽

 

 今(なま)出(ぃん)ぢゃる二人(たい)や森川(むりかわ)子(しい)妻(とぅじ)生(な)し子(ぐぁ)。連(つぃ)り無(な)さや夫(うぅとぅ)森川(むりかわ)が事(くとぅ)どぅ、五六年(ぐるくにん)色々(いるいる)不幸(ふしやわ)し続(つぃづぃ)ち、妻(とぅじ)夫婦(みいとぅ)一所(ちゅとぅくる)に暮(く)らし方(かた)成(な)らぬ、泣(な)く泣(な)くん二年(たとぅ)千代(ちゆ)や別(わか)てぃ働(はたら)遣(や)り、誰(たる)迚(とぅてぃ)一人(ふぃちゅい)手回(てぃまわ)しぬ行(い)かば、尋(たづぃ)に遣(や)り共(とぅむ)に玉黄金(たまくがに)一人子(ちゅいぐぁ)、撫育(なすだ)てぃ為(し)ちゅてぃ浮世(うちゆ)暮(く)らさてぃやり、我身(わみ)や御大名方(うでえみょおがた)御乳母(うちいば)に成(な)やり森川(むりかわ)や遠(とぅう)く、山原(やんばる)に下(う)りてぃ山工(やまく)彼(か)此(く)りぬ、働(はたら)ちゆ為(しゅ)んてぃやり互(たげ)に泣(な)別(わか)てぃ、十年(とぅとぅ)二年(たとぅ)に成(な)ゆん、我身(わみ)や御檀那(うだんな)御恵(うみぐ)みに逢(おお)てぃ、朝夕(あさゆう)暮(く)らし方(かた)不足(ふすく)無(ね)有(あ)りば、兼(か)にてぃ約束(やくすく)ぬ如(ぐとぅ)尋(たづぃ)にらん為(す)りば、行方(ゆくい)吾(わ)知(し)らん。行方(ゆくい)白露(しらつぃゆ)に二人(たい)袖(すでぃ)濡(ぬ)らち十年(ととぅ)余(あま)る迄(までぃ)に思(う)暮(く)らち居(うぅ)たし此(く)頃(ぐる)に聞(ち)ちば、大宜味(ううぎみ)津波(つぃふぁ)居(うぅ)とぅてぃ塩(しゅう)焚(た)遣(や)り日々(ふぃび)ぬ、暮(く)ら為(しゅ)んてぃやり語(かた)り部(び)有(あ)り知(し)らし部(び)有(あ)り生(な)し子(ぐぁ)連(つぃ)り立(た)ち遣(や)り、尋(とぅ)めてぃ行(い)ちゅん。

 

 歌

 

恋(くい)し津波村(つぃふぁむら)や知(し)らにどぅむ 親子(うやくぁ)肝(ち む)ぬ思(う)出(ぢゃ)しどぅ道標(みちしるび)とぅ思(む)てぃ 尋(とぅ)めえ尋(とぅ)めえに行(い)ちゅる旅立(たびだ)ち袖(すでぃ)に 掛(か)かる白玉(しらたま)や降(ふ)らん夏雨(なつぃぐり)か 歩(あゆ)でぃ歩(あゆ)まらん山路(やまじ)踏(ふ)み分(わ)きてぃ 頼(たぬ)む津波村(つぃふぁむら)や今(なま)どぅ着(つぃ)ちゃる。

 

鶴松

 

 やあ母親(ふぁふぁうや)彼(あ)りや尋(たづぃ)にゆる津波(つぃふぁ)村(むた)でむぬ、此(く)松(まつぃ)下(した)に暫(しば)し立(た)ち淀(ゆどぅ)でぃ、父親(ちちうや)御行方(うゆくい)尋(たづぃ)に遣(や)り召侍(みゃべ)る。

 

猿引

 

 此(く)りや久志辺野古(くしふぃぬく)猿引(さるふぃ)ちどぅ有(や)ゆる、大宜味(ううぎみ)番所(ばんどぅくる)から此(く)の猿(さる)踊(うどぅ)御望(うぬず)みぬ有(あ)とぅてぃ、添(そお)てぃ行(い)ちゅん、とおとお、然(さ)だり、

然(さ)だり。

 

 歌

 

実(まくとぅ)名(な)に立(た)ちゅる塩屋(しゅや)番所(ばんどぅくる)

   中山(なかやま)や腰当(くしゃ)てぃ港(みなとぅ)前(め)成(な)

 

沖(うち)の真船(まぶに)ぬ、ええやええや 浜(はま)に寄(ゆ)し来(く)り

ば道(みち)急(いす)ぐ人(ちゅ)立(た)ち淀(ゆどぅ)でぃ見(み)有侍(や 

び)さ 御真人(うまんちゅ)全部(まぢり)首里那覇(しゅりなふぁ)音(

とぅ)に鳴響(とぅゆ)む。

 

乙樽

 

 やあやあ、猿引(さるふぃ)ち、首里方(しゅりかた)士族(さむれえ)森川(むり

 かわ)子(し)てぃやり、此(く)の辺(ふぃ)浦(うら)に塩(しゅう)焚(た) 

 ちゅんてぃやり聞(ち)ちゅん。如何(いちゃ)有様(ありさま)成(な)やい居参 

 (いめ)が。

 

 

猿引

 

 然(さ)り、我身(やみ)や久志辺野古(くしふぃぬく)他間切(たまぢり)ぬ者(

 ぬ)有(や)りば、此(く)辺(ふぃ)様態(よおてえ)細(みすぃ)く知(し)

 や侍(び)らん、所(とぅくる)人々(ふぃとぅびとぅ)に尋(たづぃ)に遣(や)

 り美御宣(うんにゅ)かり。

 

乙樽

 

 他所島(ゆすしま)人(ちゅ)有(や)りば、其(う)筈(はじ)どぅ有(や)

 る。此(く)辺(ふぃ)者(むぬ)から尋(たづぃ)に遣(や)り聞(ち)かに。

 

鶴松

 

 やあ猿引(さるふぃ)ちゆ、其(う)猿(さる)踊(うぅどぅ)珍(みづぃら)

 しゃ有(あ)むん。一踊(ふぃとぅうぅどぅ)踊(うぅどぅ)らし遣(や)り見(み)

 してぃ給(たぼ)り。

 

猿引

 

 拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。此(く)猿(さる)や当年(とぅう

 とぅし)五十八(ぐじゅうはち)、慶良間(きらま)から渡(わた)てぃ今年(くとぅし)

 十五年(じゅうぐにん)、数々(かずぃかずぃ)芸能(げえのお)面白(うむしる)さ

 有侍(あやび)むぬ、旅(たび)上(ぅうぃい)ぬ御伽(うとぢ)御休(うやすぃ)

 みぬ内(うち)に、一踊(ちゅうどぅ)踊(うどぅ)らし為(し)やり御目(うみ)

 醒(さ)まし有侍(やび)ら。とおとお、御前(うめえ)に寄(ゆ)しり遣(や)り踊 

 (うどぅ)てぃ御目掛(うみか)きり。

 

 歌

 

雲霧(くむちり)嵐(あらし)に消(ち)いてぃ長月(ながつぃち)や 名立(な

だ)たる月(つぃち)影(かぢ)さやか、何(いづぃ)りん押(う)し連(つぃ)

り立(た)ち出(い)でぃてぃ 月見(つぃちみ)に酒盛(さかむ)然(さ)てぃ

面白(うむしる)や ちるちるりんさ 照(てぃ)り渡(わた)ゆる 月影(つぃ

ちかぢ)や然(さ)てぃ見事(みぐとぅ)。

 

桜花(さくらばな) 梅(うみ)ぬ匂(にうぃ)に誘(さす)わりてぃ 老(う)

ん若(わか)き諸共(むるとぅむ)に立(た)ち出(い)でぃ 山々(やまやま)

川(かわ)辺(び)に花(はな)見(み)てぃ暮(く)らし 然(さ)てぃむ嬉(

り)しやちんちるりんさ 花(はな)色々(いるいる)露(つぃゆ)受(う)きて

ぃ 然(さ)てぃ見事(みぐとぅ)。

 

鶴松

 

 やあやあ、見(ん)ちん又(また)見欲(みぶ)しゃ面白(うむしる)さ有(あ)むん、

 今少(にゃふぃん)踊(うどぅ)らし遣(や)り、見(み)すぃてぃ給(たぼ)り。

 

猿引

 

 拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。武士(ぶし)真似(まに)踊(うど

 ぅ)てぃ御目掛(うみか)きり。

 

 歌

 

山崩(ふくざんくづぃ)りぬ其(す)ぬ時(とぅち)に 本部(むとぅぶ)大原(て

えはら)今帰仁城(なきじんぐすぃく)に 軍(いくさ)押(う)し寄(ゆ)し水(

ずぃ)漏(む)らさん取(とぅ)りゆ囲(かく)みば 按司(あじ)大将(てえ

しょお)平敷(ふぃしき)大主(ううぬし) 櫓(やぐら)上(ぅうぃい)ゆり敵

(てぃち)うぅ見下(みうる)し 日頃(ふぃぐる)手慣(てぃな)りし五尺(

ゃく)余(あま)いぬ 長刀(なぎなた)押(う)取(とぅ)り 城門(じょおむ

ん)押(う)し開(あ)き ゆらりゆらりとぅ立(た)ち出(い)でぃ 大勢(うう

ずぃい)群(むら)がる中(なか)に割(わ)ってぃ飛(とぅ)び入(い)り 人(

ぃとぅ)無(な)き所(とぅくる)うぅ行(ゆ)くが如(ぐとぅ)くに 縦(たてぃ) 

さま横(ゆく)さま切(ち)りゆ巡(みぐ)りば 敵(てぃち)軍勢(ぐんずぃい)

嵐(あらし)に木(く)葉(ふぁ)ぬ 飛(とぅ)ぶが如(ぐとぅ)く 四方(し

ふう)に颯(さ)っとぅ引(ひ)ちゆ退(しりず)く 天晴(あっぱ)稀代(きで 

え)名将(みいしょお) 神(かみ)か仏(ふとぅき)か 然(さ)てぃ然(さ) 

てぃ然(さ)てぃ。

 

猿引

 

すりすり。今(なま)拍子(ひょおし)に続(つぃづぃ)きてぃま一(ふぃとぅ)つぃ。

 

  歌

 

 武士(ぶし)身(み)や空(すら)に飛(とぅ)ぶ鳥(とぅい)心(くくる)

     見詰(みつぃ)みてぃん手(てぃ)に取(とぅ)りや成(な)らぬ

 

猿引

 

 然(さ)り、芸能(げえのお)数々(かずぃかずぃ)御目掛(うみか)きる筈(はじ) 

 やすぃが、塩屋(しゅや)番所(ばんどぅくる)駆(け)急(いす)ぢだや侍(び)  

 むぬ、此(く)辺(ふぃ)に二三日(たみっか)御滞留(うてえりゅう)有(や)ら

 ば、明日(あちゃ)ん添(そお)てぃ来(ち)踊(うぅ)どぅらし遣(や)り御目掛

 (うみか)きら。

 

鶴松

 

 此(く)二三日(たみっか)や滞留(てえりゅう)為(しゅ)むぬ、明日(あちゃ) 

 ん添(そお)てぃ来(ち)見(み)すぃてぃ給(たぼ)り。

 

猿引

 

 拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。

 

鶴松

 

 やあやあ、此(く)金(かに)や猿(さる)に苦労分(くろおぶん)呉(くぃ)ゆん。

 

猿引

 

 くりくり、彼(あ)衆(しゅ)から御褒美金(ぐほびきん)。とおとお、上(かみ)り   

 上(かみ)り美拝(みふぇえ)すでぃ有侍(やび)てぃ明日(あちゃ)ん拝(うぅが) 

 み有侍(やび)ら。

 

 歌

 

薄風(うすかぢ)立(た)たん心(くくる)晴(は)晴(ば)りとぅ

    薪(たちぢ)取(とぅ)てぃ宿(やどぅ)に戻(むどぅ)る嬉(うり)しゃ

 

乙樽

 

 やあやあ、薪取(たちぢとぅ)り、尋(たづぃ)に欲(ぶ)しゃ有(あ)むぬ近(ちか) 

 く寄(ゆ)てぃ給(たぼ)り。

 

薪取

 

 ああ、何事(ぬうぐとぅ)が有(や)ゆら。

 

乙樽

 

 首里方(しゅりがた)士族(さむれえ)森川(むりかわ)子(し)てぃやり、三十 

 (みすじ)に余(あま)る年頃(とぅしぐる)人(ちゅ)此(く)浦(うら)に 

 住(すぃま)てぃ、居(うぅ)んてぃやり聞(ち)ちゅん、如何(いちゃ)有様( 

 りさま)に成(な)やり居(うぅ)ゆが。

 

薪取

 

 然(さ)り、御尋(うたづぃ)に召(み)しぇえる森川(むりかわ)子(し)事(

とぅ)どぅ、去年(くじゅ)千夜(ちゆ)成(な)てぃ迄(までぃ)や此(く)

村(むら)兼久(かにく)に住(すぃ)まてぃ居(うぅ)有侍(やびい)たん。肝

心(ちむぐくる)見事(みぐとぅ)に持(む)っち、働(はたら)方(かた)

至極(しぐく)上分(じゅうぶ)な男(うぅとぅく)有(や)や侍(びい)たすぃが、

ああ、無蔵(んぞ)や、物縁(むぬいん)無(ね)え有侍(やび)らん。物作(

づく)いとぅん相応(ふさあ)らん、又(また)塩(しゅう)焚(た)きば雨(あみ)

ぬ降(ふ)り続(つづぃ)寄(ゆ)り、旁方(かたかた)肝(ちむ)とぅん体(

え)とぅん適(かな)らん様子(よおすぃ)有(や)や侍(びい)たん。時々(とぅ

ちどぅち)涙(なみだ)掻(か)取(とぅ)てぃ、語(かた)有侍(やびい)たす

ぃや猶(なあ)自分(どぅう)元(むとぅ)や裕福(ゆうふく)な育(すだ)ち為

(し)居(うぅ)たすぃが、段々(たんだん)不幸(ふしやわ)し続(つづぃ)ち、

首里(しゅり)住居(すぃまい)成(な)らん、泣(な)く泣(な)くん此(く)

ぬ様(よお)人島(ちゅしま)に下(う)りてぃ、毎日(めえにち)命(ぬち)

継(つぃ)ぢゅる働(はたら)ちとどぅ相応(ふさ)ゆる、此(く)十年(とぅと

ぅ)余(あま)る迄(までぃ)妻子(とぅじっくぁ)生(い)ちちが居(うぅ)

ら、抑々(すむすむ)声(くぃい)連(うとぅづぃ)聞(ち)かん、ああ、

浮世(うちゆ)に吾(わん)如(ぐとぅ)因果(いんぐぁ)者(むぬ)や居(うぅ)

らん、捻(む)でぃ言(い)ちゅてぃ泣(な)きば、人(ちゅ)上(ぅうぃい) 

でぃん思(うむ)わらん、肝(ちむ)ぬ悔(く)い引(ふぃ)ち為侍(しゃび)たん。

扨(さてぃ)又(また)其(う)程(ふどぅ)困窮(くんきゅう)身(み)に

成(な)てぃん、士族(さむれえ)義理(かどぅ)や見事(みぐとぅ)に立(た)

てぃてぃ、何(なん)とぅ差(さ)し詰(つぃ)まてぃん、人(ちゅ)に無心事(

しんぐとぅ)な蹲(つくわ)い為(す)っとぅん言(い)や取(とぅ)り仕事(し 

ぐとぅ)間処(まどぅ)間処(まどぅ)や、花(はな)色々(いるいる)作( 

ぃく)てぃ眺(なが)又(また)歌(うた)でえ読(ゆ)でぃ、暮(く)らち居  

(うぅ)有侍(やびい)たん。或(あ)時(とぅち)浜宿(はまやどぅ)りぬ侘(わ)

  びた住(すぃま)いぬ題(でえ)為(し)ち。

  歌に 荒(あば)ら家(や)に月(つぃち)や洩(む)る

      雨(あみ)や降(ふ)らにどぅん我(わ)袖(すでぃ)濡(ぬ)らち

  又 磯(いす)端(ばた)者(むぬ)有(や)りば 朝夕(あさゆ)細波(

    ざなみ)音(うとぅ)どぅ聞(ち)ちゅる

また二三年(たみとぅ)先(さち)八月(はちぐぁち)十五夜(じゅうぐや)に、寄 

(ゆ)らてぃ月見(つぃちみ)為(しゅ)る内(うち)、兎角(とぅかく)故郷(くち  

ょお)妻子(とぅじっくぁ)事(くとぅ)が思(う)出(じゃ)しゃ侍(びた 

ら。

 

歌に 連(つぃ)りなさや思(うむ)い身(み)に余(あま)てぃ居(うぅ)り 

     さやか照(てぃ)る月(つぃ)涙(なみだ)に曇(くむ)てぃ

 

又  眺(なが)みりば詰(つぃ)みてぃ 思(う)事(くとぅ)や増(ま)し

   寄(ゆ)り 迚(とぅてぃ)ん掻(か)曇(くむ)り 夜半(ゆわ)ぬ御

   (うつぃち)

 

 此(く)様(よ)な面白(うむしる)い歌(うた)でえ読(ゆ)でぃ、中々(なか

 なか)風流(ふうりゅう)な者(むぬ)有(や)や侍(びい)たすぃが、此(く)頃 

 (くる)しや何処(まあ)かいが行(い)ぢゃら、終(つぃい)歩(あ)つぃきゆ 

 すぃん見(み)有侍(やび)らん。

 

鶴松

 

 命(いぬち)思(う)み頑張(はま)てぃ知(し)らぬ山国(やまぐに)に 尋(とぅ) 

 めえ尋(とぅ)めえに来(ちゃ)すぃが今(なま)ぬ如(ぐとぅ)有(や)りば、母親 

 (ふぁふぁうや)とぅ我身(わみ)や如何(いちゃ)が為(しゅ)ゆら。

 

 歌

  

哀(あわ)此(く)二人(たい)や如何(いちゃ)が為(しゅ)ゆら

 

薪取

 

 其(う)の御二人(うたい)や森川(むりかわ)子(し)御由緒方(ぐゆいしゅがた) 

 ぬ御様子(ぐよおすぃ)、彼(あ)港(みなとぅ)前(めえ)成(な)居(うぅ)る 

 村(むら)や塩屋(しゅや)田港(たんみゃ)んでぃ言(い)や侍(びい)ん、諸廻船   

 所(しゅゆいしんじゅ)事(くとぅ)有(や)りば那覇泊(なふぁとぅまり)島々(し

 まじま)浦々(うらうら)商売人(しょおべえにん)、大層(てえそ)至極(しぐく)

 色々(いるいる)ぬ売(う)たい買(こお)たい又(また)、諸方(しょふう)旅人(

 びんちゅ)段々(だんだん)芸能(げえのお)中々(なかなか)賑(にぎ)やかな

 所(とぅくる)でえ侍(び)る。急(いす)彼(あ)村(むら)かい御越(うく)

 し召(み)しょおち、御尋(うたづぃ)に召(み)しょおり森川(むりかわ)ぬ御

 子(ぐよすぃ)委細(いせえ)御宣(うんにゅ)かる筈(はじ)でえ侍(び)る。

 

乙樽

 

 やあやあ、言(ぃゆ)る如(ぐとぅ)に急(いす)村(むら)に行(い)ち遣(や) 

 り、細々(くまぐま)様子(よおすぃ)尋(たづぃ)に遣(や)り見(ん)だに。

 

薪取

 

 然(さ)り、我身(わみ)や先(ま)づぃ終(うえ)り召(み)し(や)侍(び)り。

 

乙樽

 

 やあ、鶴松(つぃるまつぃ)ゆ。でぃゆでぃゆ、彼(あ)村(むら)に行(い)かに。

 

鶴松

 

 とおとお、御供(うとぅむ)為侍(しゃび)ら。やあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ、彼(あ) 

 りゆ番所(ばんどぅくる)此(く)からや宿通(しゅくとお)り、諸人(しゅにん)

 往来(おおれえ)ぬ絶(て)間(ま)無(ねえ)有(あ)むぬ、此処(くま)居(

 ぅ)とぅてぃ御様子(ぐよすぃ)尋(たづぃ)に遣(や)り見(み)やびら。

 

森川の子

 

 此(く)りや首里方(しゅりかた)士族(さむれえ)森川(むりかわ)子(し)、此 

 (く)世(ゆ)人間(にんぢん)栄(さか)い衰(うとぅる)いや夏(なつぃ)と 

 ぅ冬(ふゆ)心(ぐくる)、生(い)変(か)わり変(か)わり散々(さんざん)に窶  

 (やつぃ)り果(は)てぃ、此(く)成(な)り有(や)りば哀(あわ)妻子(と

 ぅじっくぁ)ぬ、生(い)死(し)に事(くとぅ)便(たゆ)り無(ねえ)有(あ) 

 りば、音連(うとぅづぃ)聞(ち)かん、浅(あさ)ましや一人(ふぃちゅい)思

 (うみ)焦(くが)りとぅてぃ道柴(みちしば)露(つぃゆ)とぅ、共(とぅむ)に

 消(ち)い果(は)てぃてぃ犬猫(いんまや)餌食(いじき)成(な)ゆらとぅ思(

 み)わ。ああ、此(く)天(てぃん)下(しちゃ)に吾(わん)如(ぐと)る至極 

 (しぐく)因果(いんぐぁ)者(むぬ)や居(うぅ)らん、いや、泣(な)ち破(や

 ん)てぃ遣(や)り如何(ちゃ)為(しゅ)が憂(う)苦(くり)しゃ為(しゅ)す

 ぃん、天(てぃん)御定(うさだ)みぬ此(く)生(う)まりとぅ思(む)てぃ、

 思(うみ)切(ち)遣(や)り急(いす)日々(ふぃび)営(いとぅな)みに、今 

 日(ちゅう)や東方(あがりかた)ぬ村々(むらむら)に行(い)ちゅん。

 

 

東西(とぅうぜえ)東西(とぅうぜえ)、聞(ち)ち召(み)しょおり 実(まくとぅ)

名(な)に合(あ)う塩屋(しゅや)港(みなとぅ) 入船(いりふに)出船(でぃ

ふに)絶(て)間(ま)なく 浦々(うらうら)諸船(しゅすぃん)舟子(ふな

く)共(どぅむ) 苫(とぅま)うぅ敷(し)寝(に)に梶(かじ)枕(まくら) 

哀(あわ)りに歌(うた)う節々(ふしぶし)うぅ 聞(ち)くに付(つぃ)きてぃ

ん袖(すでぃ)濡(ぬ)るる 山(やま)端(ふぁ)出(い)づぃる月影(つぃち

かぢ)に 海士(あま)釣(つぃ)り舟(ふに)漕(く)連(つぃ)りてぃ 沖

(うち)方(かた)に出(い)ぢてぃ行(い)く 吾(わり)ん世渡(ゆわた) 

る営(いとぅな)みに 梅(うみ)や桜(さくら)に杜若(かきつぃばた) 山吹(や

まぶち)長春(ちょおしゅん)風車(かざぐるま) 花(はな)色々(いるいる)

籠(かぐ)に入(い)り 村々(むらむら)里々(さとぅさとぅ)行(い)ち巡

ぐ)此(く)買(こお)遣(や)り給(たぼ)おり 踊(うぅどぅ)てぃ御目(

み)掛(か)きら。

 

乙樽

 

 やあ、鶴松(つぃるまつぃ)ゆ、花(はな)や言遣(いや)りる如(ぐとぅ)買(か) 

 い取(とぅ)ら為(しゅ)むん、笠(かさ)外(はづぃ)一踊(ふぃとぅうぅどぅ)

 い踊(うぅどぅ)てぃ見(ん)すぃらりりてぃやり、彼(あ)花売(はなう)りに語

 (かた)てぃ来(く)う。

 

鶴松

 

 やあやあ、花(はな)や言遣(いや)りる如(ぐとぅ)買(か)い取(とぅ)らん為(し

 ゅ)むん、笠(かさ)外(はづぃ)一踊(ふぃとぅうぅどぅ)踊(うぅどぅ)てぃ

 見(ん)すぃらりり。

 

森川の子

 

 幸(しやわ)しどぅ有(や)ゆる踊(うぅどぅ)てぃ御目(うみ)掛(か)きら。

 

乙樽

 

 やあやあ、鶴松(つぃるまつぃ)ゆ、彼(あ)花売(はなう)りに梅(んみ)花(は

 な)一枝(ちゅいだ)持(む)ち遣(や)り行参(いもお)りてぃやり、語(かた)

 ぃ来(く)う。

 

鶴松

 

 やあやあ、母親(ふぁふぁうや)梅(んみ)花(はな)御望(うぬず)みゆでえむ

 ぬ、咲(さ)清(ちゅ)ら有(あ)すぃ一枝(ちゅいだ)持(む)ち遣(や)り行

 参(いもお)り。

 

森川の子

 

 拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。梅(んみ)や匂(にう)い萎(しゅう 

 ら)しゃ旅(たび)上(ぅうぃい)ぬ御伽(うとぅぢ)、幸(しやわ)しどぅ有(や)  

 ゆる急(いす)上(あ)ぎ有侍(やび)ら。

 

鶴松

 

 とおとお、持(む)ち遣(や)り行参(いもお)り。

 

鶴松

 

 今(なま)花売(はなう)り母親(ふぁふぁうや)ゆ拝(うぃが)でぃ、慌(あわ)

 てぃ様(さま)彼(あ)りに隠(かく)遣(や)り居(うぅ)すぃや、尋(たづぃ)

 にゆる父親(ちちうや)や彼(あ)りや有(あ)や侍(び)らに。

 

乙樽

 

 尋(たづぃ)にゆる父親(ちちうや)や彼(あ)りや有(や)ゆる。

 

鶴松

 

 神(かみ)に御助(うたすぃ)きに願(にが)事(くとぅ)叶(かな)てぃ、今(な

 ま)引合(ふぃちゃわ)しや夢(いみ)が有(や)や侍(びい)ら、やあ、母親( 

 ぁふぁうや)、押(う)し掛(か)きに行(い)急(いす)拝(うぅが)み有侍(や

 び)ら。

 

 歌

 

 親子(うやく)命(ぬち)励(はま)てぃ尋(とぅめ)てぃ来(ちゅ)る心(くくる)

    徒(あだ)に成(な)何(ぬ)ゆでぃ隠(かく)遣(や)り居参(いめ)が

 

乙樽

 

 やあやあ、此(く)浦(うら)に兎角(とぅかく)何時(いつぃ)迄(までぃ)

 ぅ思(うむ)てぃ、結(むすぃ)でぃ有(あ)る縁(いん)に思(うむ)い隠(かく)

 さりてぃ、妻(とぅじ)生(な)し子(ぐぁ)嫌(ちら)てぃ隠(かく)遣(や)り

 居参(いめ)ら。

 

森川の子

 

 今(なま)尋(たづぃ)に事(ぐとぅ)夢(いみ)や而置(ちょ)見(ん)だん、

 浅(あさ)ましや此(く)身(み)斯(か)に有(あ)る有様(ありさま)に、成(な) 

 り果(は)てぃてぃ居(うぅ)り実(まく)とぅ妻子(とぅじっくぁ)に、面(うむ

 てぃ)打(う)ち向(ん)かてぃ言葉(くとぅば)成(な)らん、慌(あわ)てぃ様

 (さま)此(く)りに顔(かう)隠(かく)居(うぅ)ゆる。

 

乙樽

 

 兼(か)にてぃ行(ゆ)く末(すぃい)良(ゆ)し悪(あ)しや思(うむ)な、開(あ)

 かん振別(ふやか)りてぃ憂(う)暮(く)為(しゅ)すぃん、誰(たる)ゆ恨

 ら)みゆが互(たげ)運(うん)然(さ)らみ、やあやあ、鶴松(つぃるまつぃ)と

 ぅ我身(わみ)や、御檀那(うだんな)御慈悲(ぐじふぃ)身(み)に余(あま)る

 程(ふどぅ)蒙(こおむ)り遣(や)り居(うぅ)り朝夕(あさゆさ)暮(く)

 らし方(かた)不足(ふすく)無(ねえ)有(あ)むぬ急(いす)連(つぃ)り登

 (ぬぶ)てぃ、玉黄金(たまくがに)生(な)し子(ぐぁ)撫(な)でぃ育(すだ)て

 ぃ為(しゅ)る如(ぐとぅ)に、計(はか)ら遣(や)り給(たぼ)り。

 

 歌

 

 忍(しぬ)び隠(かく)たる小屋(くや)戸(とぅ)うぅ開(あ)きてぃ

      立(た)ち出(ぃん)ぢる袖(すでぃ)や露(つぃゆ)繁(しぢ)さ

 

鶴松

 

 やあ、父親(ちちうや)ゆ、拝(うぅが)み欲(ぶ)しゃ心(うら)切(ち)らしゃ余  

 (あ)まり過(すぃ)切(ち)らん、母親(ふぁふぁうや)とぅ二人(たい)命(

 ぬち)思(う)励(はま)てぃ知(し)らん山国(やまぐに)に尋(たづぃ)に遣(や)

 り下(う)りてぃ、今日(ちゅう)拝(うぅが)む事(くとぅ)や夢(いみ)が有(や)

 や侍(びい)ら。

 

森川の子

 

 ああ、童(わらび)貴(あてぃ)無(な)しぬ朝夕(あさゆ)物(むぬ)思(うむ)

 ぃ、憂(う)苦(くり)しゃ為(しゅ)すぃん誰(た)が為(し)ちゃる事(くとぅ)

 が、果報(かふ)無(ね)親(うや)に成(な)さったる因果(いんぐぁ)、やあ、

 鶴松(つぃるまつぃ)赤子(あかぐぁ)時分(じぶん)別(わか)遣(や)り居 

 (うぅ)りば、哀(あわ)面影(うむかぢ)夢現(いみうつぃつぃ)心(ぐくる)、 

 行会(いちゃ)てえ知(し)らん嫌(いや)な有(あ)りば、斯(か)に有(あ)る引 

 合(ふぃちゃわ)しや夢(いみ)や而置(ちょお)見(ん)だん。

 

乙樽

 

 一期(いちぐ)此(く)子(っくぁ)親(うや)事(くとぅ)言(い)ちゅてぃ、 

 袖(すでぃ)濡(ぬ)らち居(うぅ)り肝(ちむ)肝(ちむ)成(な)らん、尋(

 づぃ)にらん為(すぃ)り行方(ゆくい)吾(わ)知(し)らん、十年(とぅとぅ)

 余(あま)る迄(までぃ)ん思暮(うみくら)居(うぅ)たすぃ、此(く)村(

 ら)浜宿(はまやどぅ)りに住(すぃま)てぃ居参(いめ)んてぃやり、知(し)ら

 し部(び)有(あ)てぃどぅ尋(とぅ)めてぃ来(ち)ちゃる。

 

森川の子

 

 やあ、乙樽(うとぅたる)、やや、鶴松(つぃるまつぃ)、長浜(ながはま)真砂(

 さぐ)読(ゆ)みや尽(つぃく)すとぅん、斯(か)に有(あ)る嬉(うり)しゃぬ言 

 (い)ちん尽(つぃく)さりみ、やあやあ、長旅(ながたび)ぬ疲(つぃか)足元(

 しむとぅ)病(や)みゆら。今日(ちゅう)や先(ま)ずぃ我(わ)が浜宿(はまや

 どぅ)りに行(い)ぢ、明日(あちゃ)明(あ)き明(あ)きに押(う)し連(つぃ)

 りてぃ上(ぬぶ)ら、とおとお、親子(うやく)押(う)し連(つぃ)りてぃ踊(うぅ

 どぅ)てぃ戻(むどぅ)ら。

 

鶴松

 

 召(み)しゃいる事(ぐとぅ)踊(うぅどぅ)てぃ、御供(うとぅむ)為侍(しゃび)

 ら。

 

 歌

 

 親子(うやく)振会(ふやわ)ちゃる今日(ちゅう)嬉(うり)しさや

  莟(つぃぶ)でぃ居(うぅ)る花(はな)露(つぃゆ)来会(ちゃ)た如(ぐとぅ)