大川敵討:本文 久手堅親雲上作
村原のひや
出(でぃ)よおちゃる者(むぬ)や、大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ頭役(かしらやく)村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)、今帰仁(なきじん)ぬ城(ぐすぃく)御使(うつぃけ)え行(い)ち遣(や)り、戻(むどぅ)る道(みち)過(すぃ)がら聞(ち)きば腹立(はらだ)ちや、谷茶暴者(たんちゃあまやあ)が野心事(やしんぐとぅ)企(たく)でぃ、何(ぬ)ぬ事(くとぅ)ん思(うま)ん大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ、国々(くにぐに)ぬ按司部(あじび)討(う)たんてぃやり為(しゅ)んでぃ、島々(しまじま)ゆ巡(みぐ)てぃ段々(だんだん)に言成(いな)ち、加勢(かしい)頼(たぬ)み入(い)り軍(いくさ)押(う)し寄(ゆ)してぃ、大川(おおかわ)ぬ城(ぐすぃく)七重八重(なないやい)、取(とぅ)り囲(かく)み囲(かく)てぃ俄(にわ)か事(くとぅ)有(や)りば、分別(ぶんびち)ん成(な)らん大勢(てえすぃい)に無勢(ぶずぃい)、力(ちから)及(うゆ)ばらん按司(あんじ)や討(う)ち死(じ)に、思(う)みん子(ぐぁ)ぬ事(くとぅ)や嗚呼(ああ)口惜(くちう)しや、敵(てぃ)ちぬ生(い)ち捕(どぅ)遣(や)り、按司(あじ)ぬ跡(あとぅ)継(つぃ)がち御育(うすだ)てぃゆてぃやり、欲悪(ゆくあく)な輩(やから)慈悲(じふぃ)ぬ肝(ちむ)飾(かざ)てぃ、此(く)ぬ村原(むらばる)が有難(ありがた)さ思(うむ)てぃ、降参(こおさん)ゆ為(すぃ)らば、思(う)み子(ぐぁ)諸共(むるとぅむ)に、討(う)ち果(は)たさんでぃぬ計(はから)いどぅ有(や)ゆる、嗚呼(ああ)、心得(くくるい)や為(し)がな思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ちからに、時節(じしつぃ)待(ま)ち受(う)きてぃ敵(てぃち)討(う)たんとぅ思(む)てぃ、村原(むらばる)が命(いぬち)長(なが)れえてぃ居(うぅ)ゆん、嗚呼(ああ)尊(とお)とぅ神仏(かみふとぅき)揃(する)てぃ助(たすぃ)き遣(や)り給(たぼ)り。嗚呼(ああ)此(く)ぬ仕度(したく)為(し)ちや大事(でじ)有(あ)らん為(しゅ)むぬ、忍(しぬ)ぶ編(あ)み笠(がさ)に深(ふか)く顔(かう)隠(かく)ち、我(わ)が頼(たゆ)い島(しま)や茶谷(ちゃたん)屋良村(やらむら)に忍(しぬ)び隠(かく)りとぅてぃ月(つぃち)ゆ待(ま)たに。
歌
誠(まくとぅ)かや実(じつぃ)か我肝(わぢむ)惚(ふ)惚(ぶ)りとぅ
寝覚(にさ)み驚(うどぅる)ちぬ夢(いみ)ぬ心(くくる)
乙樽
三人(みちゃい)ぬ者(むぬ)や大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ、頭役(かしらやく)
村原(むらばる)が母(ふぁふぁ)や妻(とぅじ)生(な)し子(ぐぁ)、谷茶暴者(たんちゃあまやあ)が野心事(やしんぐとぅ)企(たく)でぃ、何(ぬ)ぬ事(くとぅ)ん思(うま)ん大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ、国々(くにぐに)ぬ按司部(あじび)討(う)たんてぃやり為(しゅ)んでぃ、島々(しまじま)ゆ巡(みぐ)てぃ色々(いるいる)に言成(いな)ち、加勢(かしい)頼(たぬ)み入(い)り軍(いくさ)押(う)し寄(ゆ)してぃ、按司添(あじすい)とぅ共(とぅむ)に村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)ん、討(う)ち死(じ)にゆてぃやり知(し)らし部(び)ぬ有(あ)りば、夢現(いみうつぃつぃ)心(ぐくる)肝(ちむ)ん肝(ちむ)成(な)らん、無情(むじょ)ぬ此(く)ぬ世界(しけ)や斯(か)にん有(あ)るい、やあ、母前(あやあめえ)ゆ泣(な)く涙(なだ)とぅ共(とぅむ)に、成(な)り欲(ぶ)しゃどぅ有(あ)すぃが、忍(しぬ)び隠(かく)りとぅてぃ、一人子(ちゅいぐぁ)乙松(うとぅまつぃ)や取(とぅ)り育(すぃだ)てぃ育(すぃだ)てぃ、人(ちゅ)に成(な)ちからに親父祖(うやふじ)ぬ跡(あとぅ)や継(つぃ)がし欲(ぶ)しゃぬ、とおとお、落(う)てぃる露涙(つぃゆなだ)ん押(う)し払(はら)い払(はら)い、御気張(うちば)りゆ召(み)しょり御供(うとぅむ)為侍(しゃび)ら。
母
要(い)らん年寄(とぅしゆ)りぬ長生(ながい)ちわ為(し)ちゅてぃ、あきよ、此(く)ぬ憂(う)ち目(み)見(み)るが心気(しんち)、迚(とぅてぃ)ん諸共(むるとぅむ)に成(な)らんてぃやり為(すぃ)ば、朝夕(あさゆ)手放(てぃばな)さん玉(たま)ぬ乙松(うとぅまつぃ)が、花(はな)ぬ面影(うむかじ)ぬ名残(なぐ)り立(た)ち勝(まさ)てぃ、如何(いちゃ)し忘(わすぃ)りゆが彼(あ)ぬ世(ゆ)迄(までぃ)ん。
乙樽
要(い)らん事(くとぅ)召(み)しょな遅(うく)りてぃや済(すぃ)まん、気(ち)に任(まか)ち三人(みちゃい)諸共(むるとぅむ)に成(な)らば、乙松(うとぅまつぃ)ゆ育(すぃだ)てぃ程々(ふどぅふどぅ)に成(な)さば、君親(きみうや)ぬ事(くとぅ)ん為(すぃ)らな置(う)ちゅみ、とおとお、御気張(うちば)りゆ召(み)しょり御供(うとぅむ)為侍(しゃび)ら。
歌
惜(あた)ら人間(にんぢん)に生(う)まり遣(や)り居(うぅ)すぃが
安々(やすぃやすぃ)とぅ暮(く)らす暇(ふぃま)ん無(ね)らん
乙樽
何(ぬ)ぬ罪(つぃみ)ぬ有(あ)たが連(つぃ)り無(な)さや三人(みちゃい)。
母
あきよ、忍(しぬ)ばらん心(くくる)暗闇(くらやみ)に。
歌
行(い)ち迷(まゆ)い迷(まゆ)い。
乙樽
行(い)く先(さち)ん知(し)らん野山(ぬやま)坂平(さくふぃら)ん。
歌
唯(ただ)足(あし)に任(まか)ち
乙樽
掛(か)かる方(かた)無(ね)らん行(ゆ)く末(すぃ)白玉(しらたま)ぬ。
母
露涙(つぃゆなみだ)や霰雪(あらりゆち)ん降(ふ)り勝(まさ)てぃ
歌
冬(ふゆ)ぬ山嵐(やまあり)や足元(あしむとぅ)ん詰(つぃ)まてぃ
肝(ちむ)ん肝(ちむ)成(な)らんあきよ如何(いちゃ)成(な)ゆが
乙樽
御気張(うちば)りゆ召(み)しょり軈(やが)てぃ夜(ゆ)ん明(あ)きら。
母
肝(ちむ)覆(うす)てぃ行(い)ちゅん、暫(しば)し休(やすぃ)ま。
乙樽
やあ、母前(あやあめえ)ゆ。母前(あやあめえ)ゆ。此(く)ぬ子(くぁ)抱(だ)ち居(うぅ)りば姑親(すぃとぅうや)ぬ事(くとぅ)や、肝(ちむ)ぬ儘(まま)成(な)らん急(いす)ぢ急(いす)がらん、迂闊(うかあっ)とぅ為(し)ち居(うぅ)てぃ敵(てぃち)に追(うぃ)い付(つぃ)かり、三人共(みちゃいとぅむ)浮(う)ち目(み)見(ん)だんゆりわ迚(とぅてぃ)ん、此(く)ぬ子(くぁ)共(どぅむ)捨(すぃ)てぃてぃ身(み)過(すぃ)がらに成(な)りば、姑(すぃとぅ)一人(ちゅい)が事(くとぅ)や自由(じゆ)に成(な)ゆん。義理(ぢり)ぬ道(みち)でむぬ、思(う)み切(ち)らな成(な)ゆみ、やあ、乙松(うとぅまつぃ)ゆ乙松(うとぅまつぃ)ゆ吾(わん)如(ぐと)る親(うや)に生(な)さったる因果(いんぐぁ)、是(くり)までぃでゆむぬ、母(ふぁふぁ)ぬ面影(うむかぢ)ん、夢現(いみうつぃつぃ)心(ぐくる)起(う)きてぃ見(ん)でぃゆ。あきよ、貴(あてぃ)無(な)しぬ何(ぬ)ぬ事(くとぅ)ん思(う)まん、哀(あわ)り楽々(らくらく)とぅ眠(にぶ)るが心気(しんち)。やあ、乙松(うとぅまつぃ)ゆ実(まく)とぅ後生(ぐしょ)有(あ)らば、父親(ちちうや)ぬ側(すば)に先(さ)ち立(だ)ちゃい行(い)ぢゅてぃ、待(ま)ちゃい居(うぅ)りゆ。やあ、乙松(うとぅまつぃ)。天(てぃん)ぬ引会(ふぃちゃわ)しに情(なさ)き有(あ)る人(ふぃとぅ)ぬ、育(すだ)てぃ遣(や)り呉(くぃ)らば、主人(しゅじん)親父祖(うやぶち)ぬ跡方(あとぅかた)や頼(たん)でぃ尋(たづぃ)に遣(や)り呉(くぃ)りゆ。嗚呼(ああ)尊(とお)とぅ、神仏(かみふとぅき)揃(する)てぃ見守(みまむ)遣(や)り給(たぼ)り。思(う)み切(ち)ちゃい居(うぅ)すぃが、実(まく)とぅ面(つぃら)見(ん)でぃわ、我肝(わぢむ)忍(しぬ)ばらん闇(やみ)に成(な)ゆさ。
歌
ああき、我肝(わぢむ)忍(しぬ)ばらん闇(やみ)に成(な)ゆさ。
乙樽
やあ、母前(あやあめえ)ゆ、軈(やが)てぃ喜納村(ちなむら)や便(たゆ)り島(しま)でむぬ、御気張(うちば)りゆ召(み)しょり、御供(うとぅむ)為侍(しゃび)ら。やあ、母前(あやあめえ)ゆ、母前(あやあめえ)ゆ。
母
肝(ちむ)ん肝(ちむ)ん成(な)らん暫(しば)し休(やすぃ)ま。
村原のひや
是(くり)や村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)。義理(ぢり)ぬ竹垣(ましがち)に囲(かく)まりてぃ我身(わみ)ぬ、浅(あさ)ましや露(つぃゆ)ぬ命(いぬち)有(や)すぃが、思(う)み子(っくぁ)取(とぅ)い戻(むどぅ)す念願(にんぐぁん)ぬ有(あ)とぅてぃ、眠(にぶ)る夜(ゆ)ん寝(に)らん忍(しぬ)でぃ廻(まわ)る、斯(く)にや夜更(ゆふう)きに童(わらび)泣(な)ち声(ぐぃ)や、如何(いちゃ)為(し)ちゃる事(ぐとぅ)が立(た)ち寄(ゆ)遣(や)り見(ん)だに。やあ、乙松(うとぅまつぃ)、嗚呼(ああ)身(み)に替(け)えてぃ朝夕(あさゆ)撫(な)でぃ育(すだ)てぃ為(しゅ)たる、此(く)ぬ一人子(ちゅいぐぁ)有(や)すぃが乱(みだ)り世(ゆ)に成(な)りば、哀(あわ)り此(く)ぬ態(なり)に成(な)すぃが心気(しんち)。母(ふぁふぁ)とぅ乙樽(うとぅだる)行方(ゆくい)白玉(しらたま)ぬ、露霜(つぃゆしむ)とぅ共(とぅむ)に成(な)たらとぅ思(み)ば、嗚呼(ああ)浅(あさ)ましや。いや、無情(むじょ)ぬ此(く)ぬ世界(しけ)ぬ習(なれ)や知(し)らに、遅(うく)りてぃや済(すぃ)まん先(さち)に掛(か)かち。
乙樽
やあ、母前(あやあめえ)ゆ母前(あやあめえ)ゆ。
村原のひや
やあやあ、斯(か)にゃる霜降(しむふ)りに此(く)が遠(とぅ)山道(やまみち)に、如何(いちゃ)為(し)ちゃる事(くとぅ)か二人(たい)ぬ者(むん)や。
乙樽
首里(しゅり)からどぅ有(や)すぃが旅(たび)ぬ上(ぅうぃ)ぬ習(なれ)や。
村原のひや
やあ、母親(ふぁふぁうや)、やあ、乙樽(うとぅたる)。
母
やあ、村原(むらばる)、按司添(あじすい)とぅ共(とぅむ)に成(な)る筈(はじ)ぬ者(むぬ)ぬ、主(しゅう)ぬ恩(うん)忘(わすぃ)り孝(こお)ぬ道(みち)知(し)らん、何(ぬ)ぬ面(つぃら)ぬ有(あ)とぅてぃ尋(とぅ)めてぃ来(ち)ちゃが、浅(あさ)ましや村原(むらばる)命(ぬち)ぬ惜(あたら)しゃい、妻子(とぅじっくぁ)ぬ情(なさ)き忍(しぬ)ばらん有(あ)たみ。
村原のひや
ああ、召(み)しぇえる如(ぐとぅ)、按司添(あじすい)とぅ共(とぅむ)に成(な)る筈(はじ)どぅ有(や)すぃが、思(う)みん子(ぐぁ)ぬ事(くとぅ)や敵(てぃち)ぬ生(い)ち捕(とぅ)遣(や)り、村原(むらばる)ん共(とぅむ)に討(う)ち果(は)たさんでぃぬ分別(ぶんびち)わ出(ぃん)じゃち、云言葉(いくとぅば)わ飾(かざ)てぃ過(すぃ)ぢし按司愛(あじがな)し、跡継(あとぅつぃ)ぢぬ思(う)み子(ぐぁ)御育(うすだ)てぃゆ遣(や)り、語(かた)れ部(び)ぬ有(あ)りば如何(いちゃ)しがな思(う)み子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)らんとぅ思(む)てぃ村原(むらばる)が命(いぬち)長(なが)れえてぃ居(うぅ)ゆん。
母
今(なま)ぬ如(ぐとぅ)有(や)りば誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)ゆる、肝(ちむ)に肝(ちむ)添(すぃ)いてぃ念(にん)に入(い)りゆ。
村原のひや
村原(むらばる)が生(い)ちち此(く)ぬ世界(しけ)に居(うぅ)とぅてぃ、思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ち敵(てぃち)討(う)たな置(う)ちゅみ、嗚呼(ああ)、思(うむ)い世(ゆ)に残(ぬく)ち死(し)にや成(な)有侍(やび)らん。やあ、乙樽(うとぅたる)、如何(いちゃ)し乙松(うとぅまつぃ)や捨(すぃ)てぃてぃ有(あ)たが。
母
咲(さ)ち出(ぃん)ぢゅる花(はな)わ我身(わみ)に思(う)み返(けえ)ち、何(ぬ)ぬ肝(ちむ)ぬ有(あ)とぅてぃ捨(すぃ)てぃてぃ有(あ)たが。
乙樽
大川(おおかわ)ぬ城(ぐすぃく)幸(しやわ)しぬ時(とぅち)に、按司添(あじすい)とぅ共(とぅむ)に討(う)ち死(じ)にゆてぃやり、語(かた)れ部(び)ぬ有(あ)りば沙汰(さた)ゆ聞(ち)ち及(うゆ)でぃ、三人(みちゃい)逃(に)ぢ忍(しぬ)でぃ此処(くま)迄(までぃ)や来(ちゃ)すぃが、親愛(うやがな)し事(くとぅ)や馴(な)りぬ山道(やまみち)ぬ、坂平(さくふぃら)ぬ疲(つぃか)り足元(あしむとぅ)ん詰(つぃ)まてぃ、急(いす)ぢ急(いす)がらん迂闊(うかあっ)とぅ為(し)ち居(うぅ)てぃ、敵(てぃち)に追(うぃ)い付(つぃ)かり三人共(みちゃいとぅむ)憂(う)ち目(み)、見(ん)だんゆりか迚(とぅてぃ)哀(あわ)り泣(な)く泣(な)
くん、姑親(すぃとぅうや)ぬ為(たみ)に捨(すぃ)てぃ有(あ)たん。
村原のひや
嗚呼(ああ)、此(く)ぬ上(ぅうぃい)どぅ有(や)すぃが誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)ゆる、又(また)ん世(ゆ)に出(ぃん)ぢる運(うん)ぬ巡(みぐ)り。
乙樽
やあやあ、思(う)みん子(ぐぁ)ぬ事(くとぅ)や御格護(うかくぐ)ゆてぃやり、聞(ち)ちば嬉(うり)しさや幸(しやわ)しどぅ有(や)ゆる、我身(わみ)に思(う)み付(つぃ)ちゃる事(くとぅ)ぬ又(また)有(あ)すぃや、母親(あんめえ)に名付(なづぃ)き忍(しぬ)でぃ行(い)ぢからに、命(ぬち)救(すく)てぃ給(たぼ)りてぃやり実(まく)とぅ段々(だんだん)とぅ、色々(いるいる)に言(い)やば欲悪(ゆくあく)な谷茶(たんちゃ)、企(たく)でぃ居(うぅ)る事(くとぅ)ぬ便(たゆ)り端(ばし)とぅ思(む)てぃ、疑(うたが)いや無(ね)らん掛(か)かい置(う)く積(つぃ)むり、我肝(わじむ)落(う)てぃ付(つぃ)ちゅてぃ心(くくる)ぬ許(ゆる)さし遣(や)り、思(う)み子(ぐぁ)守(む)り名付(なづぃ)き引(ふぃ)ち取(とぅ)遣(や)り来(ちゃ)侍(び)ら。
村原のひや
思(う)み子(ぐぁ)為(たみ)てぃやり女身(うぃなぐみ)わ独(ふぃちゅ)い、敵(てぃち)ぬ手(てぃ)に遣(や)らす事(くとぅ)や成(な)らん。
乙樽
女(うぃなぐ)又(また)有(や)てぃん男(うぃきが)又(また)有(や)てぃん、思(う)みん子(ぐぁ)ぬ為(たみ)に肝(ちむ)や一(ふぃとぅ)つぃ。
村原のひや
肝(ちむ)ぬ上(ぅうぃ)ぬ事(くとぅ)や其(う)ぬ筈(はじ)どぅ有(や)すぃが、気(ち)に任(まか)ち済(すぃ)みゅみ義理(ぢり)ぬ習(なれ)え。
乙樽
義理(ぢり)ぬ道(みち)てぃすぃん君親(きみうや)ぬ為(たみ)に、肝(ちむ)尽(つぃく)すぃ他(ふか)ぬ事(くとぅ)や無(ね)さみ。
村原のひや
村上(むらばる)が生(い)ちち此(く)ぬ世界(しけ)に居(うぅ)とぅてぃ、思(う)み子(ぐぁ)為(たみ)てぃやり義理(ぢり)ぬ道(みち)曲(ま)ぎてぃ、女(うぃなぐ)貴(あてぃ)無(な)しわ敵(てぃち)ぬ手(てぃ)に遣(や)らち、末代(まつぃでえ)ぬ恥辱(ちじゅく)面目(みんむく)や如何(ちゃ)為(しゅ)が、勝手(かってぃ)ぬ事(くとぅ)や許(ゆる)す事(くとぅ)成(な)らん。
乙樽
言(い)ちん役(やく)立(た)たん事(くとぅ)為(すぃ)又(また)有(や)らば、吾(わ)ね女(うぃなぐ)有(や)てぃん谷茶暴(たんちゃあまやあ)に、一刀(ちゅかたな)ん掛(か)きてぃ討(う)ち死(じ)にわ為(すぃ)らに徒(いたづぃら)に命(いぬち)、長(なが)れえてぃ何(ぬ)為(しゅ)が、とおとお、許(ゆる)ち給(たぼ)り。
母
嗚呼(ああ)、事(くとぅ)荒(あら)く為(すぃ)るな、やあ、乙樽(うとぅたる)、思(う)み子(ぐぁ)為(たみ)有(や)りば、其(う)ぬ筈(はじ)どぅ有(や)すぃが、事(くとぅ)荒(あら)く為(し)ちや仕損(しすん)じぬ基(むとぅい)、思(う)み子(ぐぁ)迄(までぃ)掛(か)きてぃ大事(でじ)有(あ)らん為(しゅ)むぬ、細々(くまぐま)とぅ全(また)く計(はか)ら遣(や)り呉(くぃ)りゆ。
乙樽
思(うむ)た事(くとぅ)叶(かな)てぃ誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)ゆる、命(ぬち)ぬ有(あ)る限(かぢ)り心(くくる)尽(つぃく)さ。
母
やあ、乙樽(うとぅたる)、思(う)み子(ぐぁ)為(たみ)てぃやり命(いぬち)振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ今(なま)ぬ事(くとぅ)言(ぃゆ)すぃや誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)すぃが、行(い)く先(さち)ぬ定(さだ)み定(さだ)まらん有(あ)りば、あきよ思(う)み尽(つぃく)す方(かた)ん無(ね)らん。
乙樽
人(ふぃとぅ)ぬ願事(にげぐとぅ)ぬ徒(あだ)に又(また)成(な)ゆみ、心(くくる)安々(やすぃやすぃ)とぅ御待(うま)ち召(み)しょり。
村原のひや
やあ、乙樽(うとぅたる)、荒(あら)く掛(か)ち引(ふぃ)ちん有(あ)る積(つぃ)むりでむぬ、腹立(はらだ)たぬ如(ぐとぅ)に心(くくる)静(しずぃ)みとぅてぃ、云言葉(いくとぅば)に応(おお)じ取(とぅ)い回(まわ)し、受(う)き返答(ふぃんとお)良(ゆ)う了見(りょおきん)ゆ為(すぃ)りゆ。
乙樽
我胸(わあむに)に留(とぅ)みてぃ我肝(わあちむ)に染(す)みてぃ仰(うゆ)す事(くとぅ)儘(まま)に、念(ねん)に入(い)らに。
村原のひや
若(む)しか事(くとぅ)漏(む)りてぃ成(な)らん其(う)ぬ際(ちわ)や、別(びつぃ)に計(はか)らとぅる手段(てぃだん)又(また)有(あ)むぬ、遅(うく)りらん如(ぐとぅ)に企(たく)でぃ居(うぅ)る次第(しでえ)、親子(うやく)此(く)ぬ三人(みちゃい)隠(かく)りとぅる談(だん)、一々(いちいち)細々(くまぐま)白状(はくじゅ)ゆ為(すぃ)り、嗚呼(ああ)、繰(く)い返(けえ)し返(けえ)し又事(またくぅとぅ)どぅ有(や)すぃが、互(たげ)に面目(みんむく)や失(うし)なわん如(ぐとぅ)に、思(う)み子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)ゆる要所(かなみどぅくる)。ええ、ええ、良(ゆ)く良(ゆ)く分別(ぶんびつぃ)題目(でえむく)どぅ有(や)ゆ
る、やあ、乙樽(うとぅだる)役立(やくた)たん我身(わみ)ぬ、妻(とぅじ)成(な)たる因果(いんぐぁ)、嗚呼(ああ)、口惜(くちうし)や。
乙樽
喩(たとぅ)い事(くとぅ)漏(む)りてぃ生殺(なまくる)し為(さ)りてぃてぃやり、思(う)み子(ぐぁ)為(たみ)有(や)りば残(ぬく)る事(くとぅ)無(ね)らん。心(くくる)安々(やすぃやすぃ)とぅ極楽(ぐくらく)どぅ有(や)ゆる。
村原のひや
嗚呼(ああ)、言(ぃゆ)る事(くとぅ)ゆ聞(ち)きば肝(ちむ)ぬ犇々(ふぃしふぃし)とぅ昔(んかし)物語(むぬがらり)聞(ち)ちゅる如(ぐとぅ)に、世(ゆ)ぬ中(なか)ぬ手本(てぃふん)沙汰(さた)どぅ残(ぬく)る。
乙樽
此(く)ぬ子(くぁ)乙松(うとぅまつぃ)ぬ御育(うすだ)てぃゆ召(み)しょち、人(ふぃとぅ)成(な)ゆる如(ぐとぅ)に計(はか)り給(たぼ)り。念使(にんづぃけ)え為(すぃ)るな其(う)ぬ育(すだ)てぃ為(しゅ)むん、姑(すぃとう)子(っくぁ)ぬ事(くとぅ)や気使(きづぃけ)為(すぃ)るな。
乙樽
やあ、母前(あやあめえ)ゆ、軈(やが)てぃ我(わ)が思(う)み子(ぐぁ)拝(うぅが)でぃ来(く)ん為(しゅ)むぬ、肝(ちむ)願(にげ)ゆ為(し)ちゅてぃ御待(うま)ち召(み)しょり。
母
義理(ぢり)ぬ道(みち)でむぬ、止(とぅ)みや成(な)らん。
歌
義理(ぢり)ぬ道(みち)でむぬ止(とぅ)みてぃ止(とぅ)みららん
乙樽
他所(ゆす)知(し)りてぃからや大事(でじ)有(あ)らん為(しゅ)むぬ、急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)てぃ待(ま)ちゃい居参(いも)り。
歌
何(ぬ)が為(すぃ)届(とぅどぅ)く斯如(かにゃ)る夢(いみ)ぬ世界(しけ)や
胸(むに)に物(むぬ)思(うみ)ば歩(あゆ)む道(みち)程(ふどぅ)ん
覚(うび)らずぃに着(つぃ)ちゃさ元(むとぅ)ぬ城(ぐすぃく)
乙樽
覚(うび)らずぃに谷茶(たんちゃ)城元(ぐすぃくむとぅ)着(つぃ)ちゃん、物(むぬ)見詰(みつぃ)み為(し)ちゅてぃ案内(あんねえ)ゆ為(すぃ)らに、やあやあ、御取次(うとぅりつぃ)ぢ頼(たぬ)ま物(むぬ)知(し)らり為侍(しゃび)ら。
門番
はあはあ、無作法(ぶさふう)無作法(ぶさふう)、内原(うちばる)に行(い)ちゃい御取次(うとぅりつぃ)ぢ為(しょ)おり
乙樽
やあやあ、我身(わみ)や大川(おおかわ)ぬ思(う)み子(ぐぁ)虎千代(とぅらちゆ)が乳親(ちいうや)どぅ有(や)ゆる守(む)り母(あむ)どぅ有(や)ゆる、大川(おおかわ)ぬ城(ぐすぃく)幸(しやわ)しぬ時(とぅち)に、慌(あわ)てぃ様(さま)逃(に)ぎてぃ隠(かく)り遣(や)り居(うぅ)たん、掛(か)かる方(かた)無(ね)らん縋(すぃが)る方(かた)無(ね)らん、聞(ち)きば御慈悲(ぐじふぃ)有(あ)てぃ守(む)り育(すぃだ)てぃ思(う)み子(ぐぁ)、御育(うすだ)てぃぬ有(あ)んでぃ音連(うとぅづぃ)りゆ拝(うぅが)でぃ、思(う)み子(ぐぁ)諸共(むるとぅむ)に命(ぬち)継(つぃ)がんとぅ思(む)てぃ、寄(ゆ)しり遣(や)り居(うぅ)むぬ頼(たん)でぃ御情(うなさ)きに、御取次(うとぅりつぃ)ぢ召(み)しょち助(たすぃ)き遣(や)り給(たぼ)り。
門番
拝(うぅが)まりゆ召(み)しょい彼(あ)りに居(い)より
谷茶
やあやあ、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)乳母(ちふぁふぁ)てぃる女(うぃなぐ)、如何(ちゃ)有(あ)りば済(すぃ)みゆが考(かんげ)てぃ召(みょ)り。
満納
然(さ)り、按司愛(あじがな)し、、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)らんてぃやり、村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)が計(はか)れえどぅ有(や)ゆる、はあ、彼(あ)り程(ふどぅ)ぬ村原(むらばる)ん運(うん)ぬ末(すぃい)成(な)りば、輪縄掛(わなが)きぬ内(うち)に首(くび)入(い)りる仕方(しかた)、此処(くま)や楽々(らくらく)とぅ足(ふぃしゃ)畳(たく)でぃ居(うぅ)とぅてぃ、村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)が謀(はか)り事(ぐとぅ)頼(たゆ)てぃ、村原(むらばる)搦(から)みゅる時節(じしつぃ)来(ちゃ)あ侍(び)たん。扨(さ)てぃ扨(さ)てぃ御果報(ぐかふう)良(い)い事(くとぅ)でえ侍(び)る。
谷茶
一段(いちだん)な事(くとぅ)一段(いちだん)な事(くとぅ)、やあ、石川(いしちゃあ)ぬ輩(ひゃあ)や別(びつぃ)に料簡(りょおきん)ぬ有(あ)りが為(しゅ)ゆら。
石川のひや
満納(まんな)言(い)遣(や)りる事(ぐとぅ)、一々(いちいち)尤(むっとぅ)む
同意(どぅうい)で侍(び)る。
谷茶
扨(さ)てぃむ扨(さ)てぃむ、分際(ぶんせえ)ん知(し)らん、此(く)ぬ按司(あじ)に向(ん)かてぃ推参(すぃいさん)な輩(やから)、許(ゆる)す事(くとぅ)無(ね)らん急(いす)ぢ引(ふぃ)ち出(ぃん)じゃち、責(し)みぬ有(あ)る限(かぢ)り、責(し)みてぃ有(あ)り筋(すぃじ)ぬ白状(はくじゅう)ゆ為(し)みり。
石川のひや
拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ、やあ、寄(ゆ)しりとぅる女(うぃなぐ)出(ぃん)ぢゃし出(ぃん)ぢゃし。
下部
さあさあ、御前(うめえ)寄(ゆ)てぃ拝(うぅが)み御側(うすば)寄(ゆ)てぃ拝(うぅが)み。とおとお、其(う)まに居寄(いよお)り居寄(いよお)り。
満納
やあ、女(うぃなぐ)、篤(とぅく)と肝(ちむ)居(いぃ)すぃてぃ確(たし)かに聞(ち)ち。己達(うぅがたち)が企(たく)でぃ企(たく)でぃ居(うぅ)る事(くとぅ)や、尋(たずぃ)にらぬ先(さち)に合点(がてぃん)どぅ有(や)ゆる、直(すぃ)ぐに其(う)ぬ科(とぅが)に当(あ)たる筈(はじ)有(や)すぃが、科(とぅが)ん被(かん)しらん女々(みみ)しさぬ如(ぐとぅ)ぬ御慈悲(ぐじふぃ)有(あ)る天(てぃん)ぬ御情(うなさ)きぬ有(あ)とぅてぃ、村原(むらばる)が行方(ゆくい)御宣(うんにゅ)きる成(な)らば、企(たく)でぃ居(うぅ)る事(くとぅ)ぬ其(う)ぬ科(とぅが)ん許(ゆる)ち、島知行(しまちぎゅ)ん取(とぅ)らち引(ふぃ)ち同胞(はろぢ)迄(までぃ)ん、其(う)ぬ肝苦(ちむちや)さや有(あ)る筈(はじ)ゆでむぬ御情(うなさ)きぬ御肝(うちむ)細(みすぃ)く取(とぅ)い受(う)きてぃ、肝(ちむ)割(わ)りてぃ実(じつぃ)に御宣(うんにゅ)きょおり。
乙樽
・・・・・・・・
満納
はあ、好(くぬ)でぃ好(くぬ)まらん、天運(てぃんうん)ぬ巡(みぐ)り、勘違(かんちげ)え為(すぃ)るな為(すぃ)るな。
乙樽
村原(むらばる)が事(くとぅ)や討(う)ち死(じ)にが為(し)ちゃら、音連(うとぅづぃ)りん無(ね)らん沙汰(さた)ん聞(ち)かん、女(うぃなぐ)貴(あてぃ)無(な)し何(ぬ)ぬ思(う)みぬ有(あ)ゆが、命(ぬち)ぬ連(つぃ)り無(な)さに按司愛(あじがな)し天(てぃん)ぬ、十百歳(とぅひゃくさ)ぬ果報(かふう)神願(かみにげ)ゆ為(し)ちゅてぃ、御情(うなさ)きに我身(わみ)ぬ露(つぃゆ)程(ふどぅ)ぬ命(いぬち)、如何(いちゃ)しがなとぅ思(む)てぃ寄(ゆ)しり遣(や)り居(うぅ)むぬ色(いる)分(わ)かち給(たぼ)り天(てぃん)ぬ御肝(うぢむ)。
満納
いやいや、隠(かく)しゅらば隠(かく)し、包(つぃつぃ)みゅらば包(つぃつぃ)み、肝(ちむ)ぬ飽(あ)く儘(まま)や責(し)みぬ有(あ)る限(かぢ)り、其(う)ぬ責(し)みに当(あ)てぃてぃ聞(ち)く筈(はじ)どぅ有(や)すぃが、責(し)みらりてぃからに御宣(うんにゅ)きる有(や)らば、科(とぅが)ぬ上(ぅうぃ)に科(とぅが)や重(かさ)にらん為(しゅ)むぬ、責(し)みららん内(うち)に御宣(うんにゅ)きより。
乙樽
何(ぬ)ぬ事(くとぅ)ん思(う)まん、女(うぃなぐ)貴(あてぃ)無(な)しに、罪科(つぃみとぅが)ゆ掛(か)きてぃ憂(う)ち苦(くり)しゃ為(し)みゆすぃや、村原(むらばる)が仕業(しわざ)恨(うら)みてぃどぅ居(うぅ)ゆる、何故(ぬゆ)でぃ身(み)に替(けえ)えてぃ実(じつぃ)ゆ隠(かく)しゃ侍(び)が、此(く)ぬ事(くとぅ)や熟(つぃくづぃ)くとぅ思(うむ)てぃ給(たぼ)り。
満納
勘違(かんちげ)え為(すぃ)るな不勘(ふかん)どぅん為(すぃ)るな、殺(くる)さりる科(とぅが)ん兼(か)にてぃ知(し)り乍(なぎ)な、責(し)みぬ上(ぅうぃ)に向(ん)かてぃ偽(いつぃわ)りや成(な)らん、有(あ)り筋(すぃじ)に言(い)ちゅてぃ殺(くる)さりる者(むぬ)ん昔(んかし)から今(なま)に数(かずぃ)や知(し)らん。
乙樽
村原(むらばる)ぬ行方(ゆくい)夢(いみ)程(ふどぅ)ん知(し)らば、御尋(うたずぃ)ぬ先(さち)に御宣(うんにゅ)きる積(つぃ)むり、何(ぬ)ぬ思(う)みぬ有(あ)ゆが我(わ)が命(ぬち)ぬ他(ふか)に何(ぬ)ぬ思(う)みぬ有(あ)とぅてぃ隠(かく)ち居(うぅ)ゆが、御言葉(うくとぅば)に応(うぅ)じる事(くとぅ)ん無(ね)らん、御返事(ぐふぃじ)御返答(ぐふぃんとぅ)に詰(つぃ)まてぃ居(うぅ)ゆん。
石川のひや
はあ、勘違(かんちげ)え為(すぃ)るな、鈍(どぅん)な事(くとぅ)言(い)うな、譬(たとぅ)い命(ぬち)限(かぢ)り現(あらわ)すなてぃやり、堅(かた)く談合(だんごお)ん為有(しちゃ)たんてぃやりか、満名(まな)言(い)やりる如(ぐとぅ)責(し)みぬ耐(にじ)らりみ、とおとお、今(なま)ぬ如(ぐとぅ)細(くま)く、真実(しんじつぃ)に言(ぃや)りすぃ百(むむ)次第(しで)や有(あ)らに、御拝(みふぇ)拝(うぅが)でぃからに、細(みすぃ)く取(とぅ)り受(う)きてぃ、包(つぃつぃ)まじに言(い)より、嗚呼(ああ)百果報(むむかふ)や目(み)ぬ前(め)引(ふぃ)ち寄(ゆ)してぃ居(うぅ)とぅてぃ、人(ちゅ)ぬ為(たみ)に惜(あた)ら命(ぬち)取(とぅ)てぃや済(すぃ)まん、人間(にんぢん)ぬ願(にげ)ぬ何(ぬ)ぬ思(う)みぬ有(あ)ゆが、思(うむ)てぃ役(やく)立(た)たん、村原(むらばる)ん捨(すぃ)てぃてぃ天道(てぃんみち)ぬ生(な)し子(ぐぁ)真肝(まちむ)打(う)ち割(わ)りてぃ、生(う)まりたる印(しるし)楽(らく)ゆ為(すぃ)りゆ、為(すぃ)りゆ。
乙樽
・・・・・・・・・・
石川のひや
さあさあ、御宣(うんにゅ)きょおり、きょおり。
乙樽
村原(むらばる)が何(なん)とぅ輩者(やからむぬ)有(や)てぃん、網(あみ)ぬ魚(いゆ)心(ぐくる)唯(ただ)一人者(ふぃちゅいむぬ)ぬ、此大(くふぃ)な御城(うぐすぃく)に弓引(ゆみふぃ)ちぬ成(な)ゆみ。仮令(たとぅい)生(い)ち残(ぬく)てぃ片隅(かたすぃみ)に居(うぅ)てぃん、天(てぃん)ぬ御定(うさだ)みぬ来(ちゃ)る間(うぇだ)ぬ命(いぬち)、海山(うみやま)に掛(か)かてぃ尽(つぃ)く迄(までぃ)どぅ有(や)ゆる、嗚呼(ああ)、按司愛(あんじがな)し初(はじ)み石川(いしかわ)とぅ満納(まんな)、島国(しまぐに)ゆ鳴響(とぅゆ)む人々(ふぃとびとぅ)どぅ有(や)すぃが、村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)や鬼(うに)ぬ如(ぐとぅ)召(み)しょち、如何(いちゃ)し其(う)り程(ふどぅ)ん恐(うとぅる)しゃゆ召(み)しぇが。
谷茶
むむ、尤(むっとぅ)むな不審(ふしん)、尤(むっとぅ)むな事(くとぅ)、やあ、女(うぃなぐ)、慈悲(じふぃ)情(なさ)き尽(つぃく)ち大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)、育(すぃだ)てぃ遣(や)り有(あ)すぃが、若(む)しか村原(むらばる)が、要(い)らぬ義理(ぢり)立(た)てぃてぃ謀叛(むふん)企(くわだ)たば、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)生(い)ちてぃ置(う)ち成(な)らん、誠(まくとぅ)真実(しんじつぃ)ん徒(あだ)に成(な)る有(や)りば村原(むらばる)ん共(とぅむ)に育(すぃだ)てぃ欲(ぶ)しゃ有(あ)てぃどぅ細(くま)く問(とぅ)い尋(たずぃ)に為(しゅ)る事(くとぅ)ゆでむぬ、守(む)り子(ぐぁ)為(たみ)とぅ隠(かく)さずぃに語(かた)り。
満納
いや、此(く)ぬ上(ぅうぃい)に又(また)ん隠(かく)しどぅん為(しゅ)らば、又事(またくとぅ)ん要(い)らん、直(すぃ)ぐに引(ふぃ)ち立(た)てぃてぃ、脛(すぃに)ぬ砕(くだ)きらば胸腹(んにばら)ゆ迄(までぃ)ん命(ぬち)ぬ有(あ)る限(かぢ)り挟(はさ)み切(ち)らしゅむん、とおとお、其(う)ぬ心得(くくり)為(し)ちゅてぃ、御宣(うんにゅ)きょおり、きょおり。
乙樽
・・・・・・・・・・
下部
遅(うく)りてぃや済(すぃ)まん急(いす)じ御宣(うんにゅ)きょり。
満納
いや、御宥(うなだ)みん知(し)らん括(くく)てぃ居(うぅ)ゆみ。
乙樽
何(ぬ)ぬ事(くとぅ)ん知(し)らん女(うぃなぐ)貴(あてぃ)無(な)しに、段々(だだ)ぬ御問(うとぅ)い事(ぐとぅ)御難儀(うなんぢ)どぅ有(や)ゆる。言(い)ちん役(やく)立(た)たん是非(じふぃ)に及(うゆ)ばらん。誠(まくとぅ)正直(しょおじき)ぬ我(わ)が胸(んに)ぬ内(うち)や、責(し)みてぃ責(し)み殺(くる)ち後(あとぅ)に御目(うみ)掛(か)きり、近(ちか)さ拝(うぅが)まりる天(てぃん)ぬ下(しちゃ)居(うぅ)とぅてぃ、偽(いつぃわ)りぬ成(な)ゆみ人(ふぃとぅ)ぬ肝(ちむ)ぬ。
満納
はあ、面付(つぃらつぃ)ちん変(か)わてぃ悪魔(あくま)嫌(や)な女(うぃなぐ)、夫(うぅとぅ)咥(くわ)ゆる悪生(あくしょ)切支丹(きりしたん)。鬼(うに)見(ん)ちゃる人(ふぃとぅ)ぬ此(く)ぬ世界(しけ)に居(うぅ)ゆみ。是(くり)どぅ鬼(うに)有(や)ゆる、さあさあ、屹度(きっとぅ)縊(く)ん締(し)みり。
下部
責(し)みらりる業(ごお)ぬ深(ふか)さ有(あ)る女(うぃなぐ)、如何(いちゃ)が、如何(いちゃ)が。
乙樽
塵芥(ちりあくた)心(ぐくる)数(かずぃ)無(ね)らん我身(わみ)ぬ、殺(くる)さりる事(くとぅ)や露(つぃゆ)程(ふどぅ)ん思(うま)ん思(う)み切(ち)やり居(うぅ)すぃが何(ぬ)ぬ事(くとぅ)ん知(し)らん、女(うぃなぐ)貴(あてぃ)無(な)しわ鬼(うに)無理(むり)に責(し)みてぃ、責(し)み殺(くる)す罪(つぃみ)ぬ我(わ)が為(たみ)に巡(みぐ)てぃ、按司愛(あじがな)し上(ぅうぃい)に行(い)ち寄(ゆ)らてぃやりとぅ思(み)ば、死(し)にゅ死(じ)にゅん是(くり)や気(ち)に掛(か)かてぃ行(い)ちゅん。
谷茶
はあ、言(ぃゆ)る事(くとぅ)ゆ聞(ち)きば、理(くとぅわり)どぅ有(や)ゆる、縄(なわ)ん掛(か)きらずぃに責(し)みん為(さ)ぬ如(ぐとぅ)に、義理(ぢり)ぬ上(ぅうぃ)ぬ椿(ちばき)有(あ)らん為(しゅ)むぬ、とおとお、締(し)みてぃ有(あ)る縄(なわ)ん急(いす)ぢ解(とぅ)ち許(ゆる)す。
乙樽
嗚呼(ああ)、尊(とお)と、此(く)ぬ御恩(ぐうん)尊(とぅうとぅ)さや女(うぃなぐ)身(み)ぬ我身(わみ)ん寄(ゆ)しり遣(や)り居(うぅ)りば、若(む)しか村原(むらばる)が生(い)ち残(ぬく)てぃ居(うく)とぅてぃ、思(う)み子(ぐぁ)御育(うすだ)てぃぬ事(くとぅ)どぅゆん聞(ち)かば、吾(わぬ)ゆりん勝(まさ)てぃ時日(とぅちふぃ)移(うつぃ)さずぃに、打(う)ち笑(われ)い笑(われ)い寄(ゆ)しりなら置(う)ちゅみ、人(ちゅ)ぬ肝(ちむ)ぬ御慈悲(うじふぃ)御情(うなさ)きどぅ我御主愛(わうしゅがな)し、百年(むむとぅ)迄(までぃ)御座(ちゅわ)り拝(うぅが)でぃ巣出(すでぃ)ら。
満納
いや、烏(からすぃ)ゆん女(うぃな)ぐ人(ふぃちゅ)や騙(だま)すとぅん如何(いちゃ)し此(く)ぬ満納(まんな)、騙(だま)しぬ成(な)ゆが素引(すん)ち行(い)ぢ牢(るう)に叩(たた)ち持(む)ち置(う)き。
谷茶
いやいや、頭(あたま)居(うぅ)てぃ物(むぬ)や念(にん)入(い)らな為(し)ちゅてぃ仕損(しすん)じてぃからや悔(く)やでぃ役(やく)立(た)たん、思案(しあん)ゆり他(ふか)ぬ事(くとぅ)や無(ね)さみ、とおとお、事(くとぅ)急(いす)ぢ為(すぃ)るな短気(たんち)為(すぃ)るな。
谷茶(独語)
扨(さ)てぃむ扨(さ)てぃむ、丈程(たきふどぅ)ん置(う)ちゃてぃ目口(みくち)柔々(やわやま)とぅ、雪(ゆち)ぬ白歯口(しらはぐち)物言差(むぬいざ)し聞(ち)きば、五音(ぐいん)から変(か)わてぃ花(はな)ぬ清(ちゅ)ら女(うぃなぐ)、見(み)りば見(み)る毎(ぐとぅ)に思(う)みどぅ増(まさ)る、我(わ)が側(すば)に置(う)ちゃり互(たげ)に楽々(らくらく)とぅ、夢(いみ)ぬ此(く)ぬ浮世(うちゆ)暮(く)らし欲(ぶ)しゃぬ、誠(まくとぅ)真実(しんじつぃ)ぬ我肝(わぢむ)どぅん呉(くぃ)らば、村原(むらばる)が事(くとぅ)ん言(い)やな置(う)ちゅみ。石川(いしちゃあ)とぅ満納(まんな)追(う)い退(ぬ)きてぃからに、我肝(わぢむ)明(あ)き明(あ)きとぅ談合(だんごお)ゆ為(すぃ)らに。
谷茶
やあやあ、此(く)ぬ事(くとぅ)や互(たげ)に迂闊(うか)とぅ為(し)ち済(すぃ)まん、今日(ちゅう)や立(た)ち別(わか)てぃ思案(しあん)為(し)ちからに、思(うむ)い極(きわ)まらば、呼(ゆ)ばす筈(はじ)でむぬ、戻(むどぅ)てぃ行(い)ぢ篤(とぅく)と考(かんげ)えてぃ召(みょ)おり。
満納
召(み)しぇえる如(ぐとぅ)物(むぬ)や一方(ふぃとぅかた)に、迂闊(うか)とぅ為(し)ち済(すぃ)まん彼(あ)ぬ女(うぃなぐ)てぃすぃや、村原(むらばる)が妻(とぅじ)ぬ乙樽(うとぅたる)ゆてぃやり、唯(ただ)成(な)らん輩(やから)女(うぃなぐ)てゃり迂闊(うか)とぅ、許(ゆる)ち置(う)ち成(な)らん、責(し)みらずぃに何(なん)とぅ尋(たずぃ)にたんてゃりか、愚痴(ぐち)ぬ上(ぅうぃ)に愚痴(ぐち)や固(かた)まゆる積(つぃ)むり牢(るう)に籠(く)み置(う)ちゅてぃ其(う)ぬ苦(くつぃ)さ為(し)みてぃ引(ふぃ)ち出(ぃん)ぢゃし出(ぃん)ぢゃし其(う)ぬ責(し)みゆ当(あ)てぃてぃ。漸々(ずぃんずぃん)とぅ根気(くんち)疲(つぃか)りゆる時(とぅち)どぅ、有(あ)り筋(すぃじ)に白状(はくじゅ)為(しゅ)る積(つぃ)むり有(や)りば、先(ま)ずぃ思案(しあん)ぬ内(うち)家籠(やく)みてぃ置(う)ちゃ侍(び)ら。
石川のひや
満納(まんな)思案(しあん)む尤(むっとぅ)むどぅ有(や)すぃが、牢籠(るうく)みん要(い)らん責(し)みん為(さ)ぬ事(ぐとぅ)ぬ、御慈悲(ぐじふぃ)御情(うなさ)きぬ按司(あじ)ぬ御計(うはか)れや、如何(いか)な悪欲(あくゆく)な愚痴(ぐち)な者(むぬ)有(や)てぃん、背(すむ)く事(くとぅ)無(ね)さみ義理(ぢり)ぬ上(ぅうぃい)に、とおとお、先(ま)ずぃ牢籠(るうく)みいや許(ゆる)ち置(う)かに。
満納
いやいや、村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)に並(なら)ぶ者(むぬ)居(うぅ)らん、企(たく)でぃ居(うぅ)る事(くとぅ)や如何(いか)程(ふどぅ)が有(や)ゆら、迂闊(うか)とぅ為(し)ち済(すぃ)まん女(うぃなぐ)童(わらび)。
石川のひや
我々(わりわり)ぬ一事(ちゅくとぅ)計(はか)ら遣(や)り居(うぅ)りば、按司(あじ)や百事(むむくとぅ)ぬ御計(うはか)れぬ有(あ)ゆん。
満納
はあ、主人(しゅじん)身(み)ぬ上(ぅうぃい)ぬ浮(う)ち沈(しづぃ)み有(や)りば、肝(ちむ)ぬ飽(あ)く儘(まま)や命限(いぬちかじ)り、嗚呼(ああ)、恐(うとぅる)しゃん知(し)らん美御宣(みゅんにゅ)き有侍(やび)すぃが、責(し)みさ為(しゅ)る事(くとぅ)ぬ御肝(うぢむ)苦(ちゃ)さ有(あ)らば、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)彼(あ)ぬ輩者(やからむぬ)とぅ、姿(すぃがた)から形(かたち)似(に)ちゅる者(むぬ)選(いら)でぃ、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)てぃやり取(とぅ)り沙汰(さた)ゆ為(し)みてぃ、外(ふか)ぬ出(ぃん)ぢ入(い)りい許(ゆる)ち有(あ)んてぃやり村原(むらばる)が聞(ち)かば疑(うたげ)えや無(ね)らん、奪(ば)い取(とぅ)らんとぅ思(む)てぃ忍(しぬ)でぃ来(く)る積(つぃ)むり、其(う)ぬ手組(てぃぐみ)為(し)ちゅてぃ搦(から)み取(とぅ)い有侍(やび)ら。
谷茶
細々(くまぐま)ぬ類(たぐい)聞(ち)ちちゃくん無(ね)らん。
満納
嗚呼(ああ)、按司愛(あじがな)し天(てぃん)ぬ栄(さけ)え衰(うとぅれ)えぬ、此(く)ぬ際(ちわ)どぅ有(や)りば包(つぃつぃ)でぃ包(つぃつぃ)まらん、恐(うとぅる)しゃん知(し)らん繰(く)い返(けえ)し返(けえ)し、美御宣(みゅんち)事(ぐとぅ)返(けえ)す科(とぅが)や、仰(うう)し召(み)しょち是非(じふぃ)共(とぅむ)に牢屋(るうや)御入為(ういすぃ)召(み)しょり。
谷茶
推参(すぃいさん)な輩(やから)愚口(ぐち)に固(かたま)とぅみ、又事(またくとぅ)ん要(い)らん投(な)ぎ捨(すぃ)てぃてぃ取(とぅ)らさ。
石川のひや
此(く)ぬ際(ちわ)ゆでむぬ御堪忍(ぐかんにん)召(み)しょり。
谷茶
やあ、石川(いしちゃあ)我(わ)が下知(ぎち)ぬ背(すむ)く、気任(ちまか)しぬ輩(やから)急(いす)ぢ引(ふぃ)ち立(た)てぃてぃ素引(すん)ち行(い)き。
石川のひや
やあ、満納(まんな)、御意(ぎゅい)背(すむ)く道(みち)ぬ此(く)ぬ世界(しけ)に有(あ)ゆみ、其(う)り此(く)りん按司(あじ)ぬ御計(うはか)れに任(まか)ち、仰(うう)す事(ぐとぅ)儘(まま)に急(いす)ぢ戻(むどぅ)ら。
谷茶
やあやあ、振合(ふやわ)しに袖(すでぃ)に縁(いん)ぬ糸(いとぅ)結(むす)でぃ、夢(いみ)ぬ間(ま)ぬ浮世(うちゆ)語(かた)れ欲(ぶ)しゃん、我(わ)が側(すば)に居(うぅ)とぅてぃ楽(らく)ゆ為(すぃ)りゆ為(すぃ)りゆ。
乙樽
御情(うなさ)きに御側(うすば)居(うぅ)らんてゃり為(すぃ)りば、御畏(うやぐみ)さ有(あ)むぬ御許(うゆる)しゆ召(み)しょり。
谷茶
いやいや、畏(やぐみ)さん要(い)らん斟酌(しんしゃく)ん為(すぃ)るな、我側(わすば)どぅん居(うぅ)らば花(はな)に増(ま)す姿(すぃがた)、其(う)ぬ飾(かざ)り締(し)みてぃ女按司(うぅなじゃら)ん為(さ)りん、島国(しまぐに)ゆ揃(する)てぃ崇(あが)みらん為(しゅ)むぬ、とおとお、側(すば)に居(うぅ)りゆ、側(すば)に居(うぅ)りゆ。
乙樽
按司(あじ)ん吾(わ)ね好(すぃ)かん楽(らく)ん又(また)好(すぃ)かん、我達(わした)限(ぢ)り有(や)てぃん女身(うぃなぐみ)ぬ習(なれ)ぬ、義理(ぢり)曲(ま)ぎてぃ成(な)りる道(みち)ぬ有(あ)ゆみ。
谷茶
いやいや、今(なま)ぬ如(ぐとぅ)愚口(ぐち)に固(かたま)とぅる下女(んざ)や、巣立(すだ)てぃん成(な)らん急(いす)ぢ戻(むどぅ)よおり。
乙樽
細(くま)かかてぃ命(ぬち)や継(つぃ)がなりば死(し)ぬみ、物乞(むぬぐ)いに成(な)てぃん命(ぬち)や継(つぃ)ぢゅん、とおとお、許(ゆる)ち給(たぼ)り。
谷茶
いやいや。
乙樽
義理(ぢり)どぅ按司(あじ)有(や)ゆる無理(むり)な事(くとぅ)召(み)しょな。
谷茶
いや、此(く)ぬ按司(あじ)ぬ言葉(くとぅば)聞(ち)かならば其方(すなた)、一刀(ちゅかたな)に命(いぬち)潰(つぃぶ)ち取(とぅ)らさ。
乙樽
殺(くる)しゅらば殺(くる)し恐(うとぅる)しゃや無(ね)らん、生々(なまなま)ぬ命(ぬち)ぬ死(し)にん死(し)なりらん、恥(はじ)ん振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ此(く)ぬ態(なり)に成(な)とる。露(つぃゆ)程(ふどぅ)ん命(いぬち)惜(う)しむ事(くとぅ)無(ね)らん、幸(しやわ)しどぅ有(や)ゆる殺(くる)し殺(くる)し。
谷茶
はあ、肝(ちむ)触(ふ)りてぃ居(うぅ)たら今(なま)ぬ事(ぐとぅ)為(しゃ)すぃや不調法(ぶちゅうふう)至極(しぐく)許(ゆる)ち給(たぼ)り、神仏(かみふとぅき)てぃすぃん人(ふぃちゅ)ぬ肝(ちむ)尽(つぃく)ち、祈(いぬ)る願事(にげぐとぅ)や御助(うたすぃ)きぬ有(あ)むぬ、細(みすぃ)く聞(ち)ち分(わ)きてぃ肝(ちむ)ん肝(ちむ)添(すぃい)てぃ、頼(たん)でぃ御情(うなさ)きに成(な)りてぃ給(たぼ)り。
乙樽
御恥(うは)じかしゃ有(あ)てぃん言(い)やな又(また)成(な)ゆみ、我(わ)が夫(うぅとぅ)や此(く)ぬ世(ゆ)隠(かく)り遣(や)り居(うぅ)らん、遺言(いぐ)為(し)ち有(あ)すぃかや三年(みとぅ)ぬ内(うち)に夫(うぅとぅ)持(む)たなてぃやり云言葉(いくとぅば)ぬ有(あ)ゆん、三年(みとぅ)やでえすぃ女身(うぃなぐみ)ぬ習(なれ)ぬ、夫二人(うぅとふたり)持(む)ちゅる道(みち)ぬ有(あ)るい。
谷茶
昔(んかし)触(ふ)り者(むん)ぬ言(い)ちゃる事(くとぅ)守(まむ)てぃ浮世(うちゆ)暮(く)らさりみ按司(あじ)ん下司(ぎすぃ)ん、恋忍(くいしぬ)ぶ道(みち)ぬ有(あ)る合間(えま)ぬ浮世(うちゆ)、辛(つぃら)さ身(み)に受(う)きてぃ思(うむ)い焦(く)がり遣(や)り、恋(くい)死(し)なば報(むく)い誰(たる)に行(い)ちゅが、とおとお、其(う)り此(く)りゆ思(うむ)てぃ、死(し)にゅる我(わ)が命(いぬち)頼(たん)でぃ御情(うなさ)きに救(すく)てぃ給(たぼ)り。
乙樽
思(うむ)い極(きわ)みとぅる吾(わぬ)どぅ又(また)有(や)すぃが、按司(あじ)ぬ御言葉(うくとぅば)や梓弓(あずぃさゆみ)心(ぐくる)、引(ふぃ)かさりてぃ行(い)ちゅる我(わ)みぬ肝(ちむ)や。
谷茶
はあ、果報(かふ)ん付(つぃ)ちゅすぃがどぅ付(つぃ)ちん付(つぃ)ち清(ぢゅ)らさ、俄(あた)果報(がふ)どぅ付(つぃ)ちゃる果報(かふ)な我身(わみ)や、はあ、為(し)たり為(し)たり。
乙樽
来(ちゅう)る二月(にんぐぁつぃ)に過(すぃ)ぢし我(わ)が夫(うぅとぅ)ぬ、三年忌(さんにんち)でむぬ弔(とぅむれ)えや済(すぃ)まち、良(ゆ)し悪(あ)しぬ御返事(ぐふぃじ)御差上(うしゃぎ)らん為(しゅ)むぬ、其(う)ぬ内(うち)や是非(じふぃ)ゆ御待(うま)ち召(み)しょり。
谷茶
いやいや、此(く)りや成(な)らん、成(な)らん。
乙樽
其(う)り此(く)りん許(ゆる)し成(な)らん事(くとぅ)有(や)らば、迚(とぅてぃ)ん一刀(ちゅかたな)に殺(くる)ち給(たぼ)り。
谷茶
はあ、其(う)り此(く)りん良(ゆ)たしゃ何時(いつぃ)迄(までぃ)ん待(ま)ちゅん、言(ぃや)りる如(ぐとぅ)済(すぃ)みゅん良(ゆ)たしゃ良(ゆ)たしゃ。
乙樽
嗚呼(ああ)、尊(とお)と、御情(うなさ)きぬ光(ふぃかり)、照(てぃ)り勝(まさ)り勝(まさ)り百年(むむとぅ)何時(いつぃ)迄(までぃ)ん拝(うぅが)でぃ巣出(すぃでぃ)有侍(やび)ら。
谷茶(独白)
嗚呼(ああ)、我身(わみ)ん誇(ふく)らしゃぬ物(むぬ)に譬(たてぃ)ららん。此(く)ぬ丈(たき)に吾(わぬ)ん成(な)や上(が)成(な)り居(うぅ)すぃが、気(き)に適(かの)お女(うぃなぐ)側(すば)に又(また)居(うぅ)らん、是(くり)どぅ我(わ)が不足(ふすぃく)心(くくる)暗闇(くらやみ)に成遣(なや)り居(うぅ)たん、今月(くんつぃち)ん過(すぃ)ぢてぃ二月(にんぐぁつぃ)ん軈(やが)てぃ、其(う)りからや互(たげ)に枕(まくら)打(う)ち並(なら)び、浮世(うちゆ)楽々(らくらく)とぅ暮(く)らすとぅ思(み)ば、待(ま)ちどぅ嬉(うり)し事(ぐとぅ)喜(ゆるく)びん多(うふぃ)さ、天(てぃん)に飛(とぅ)び昇(ぬぶ)る我身(わみ)ぬ心地(くくち)、引(ふぃ)ち寄(ゆ)してぃ給(たぼ)り御月(うつぃち)御太陽(うてぃだ)、吾(わ)自由(じゆ)為(し)ち浮世(うちゆ)遊(あすぃ)でぃ暮(く)らさ。
谷茶
やあやあ、此(く)ぬ間(えだ)や兎角(とぅかく)苦(くつぃ)さ為(し)ち居(うぅ)たら、心(くくる)晴(は)り晴(ば)りとぅ打(う)ち晴(は)りてぃ踊(うどぅ)てぃ、此(く)ぬ間(えだ)ぬ苦(くつぃ)さ思(うむ)い忘(わすぃ)り。
歌
御慈悲(ぐじふぃ)有(あ)る故(ゆい)どぅ御真人(うまんちゅ)ぬ間切(まぢり)
上下(かみしむ)ん揃(する)てぃ仰(うう)ぢ拝(うぅが)む
谷茶
はあ、清(ちゅ)らさ、清(ちゅ)らさ。
乙樽
今日(ちゅう)や思(う)みん子(ぐぁ)ぬ御側(うすば)出(ん)ぢ拝(うぅが)でぃ、明日(あちゃ)が日(ふぃ)に又(また)ん拝(うぅが)でぃ巣出(すぃでぃ)ら。
谷茶
とおとお、今日(ちゅう)や道中(どぅうちゅう)ぬ草臥(くたんでぃ)ん有(あ)らでむぬ、若按司(わかあじ)ぬ側(すば)に出(ん)ぢ休息(ゆくい)ゆ為(すぃ)り。
歌
思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ち敵(てぃち)討(う)たんとぅ思(む)
てぃ哀(あわ)り商人(あきんどぅ)に窶(やつぃ)り出(ぃん)ぢる。
村原のひや
此(く)りや村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)す、詰(つぃ)まり分別(ぶんびつぃ)に乙樽(うとぅだる)が事(くとぅ)や、母前(あんめえ)に名付(なづぃ)き敵(てぃち)ぬ城元(ぐすぃくむとぅ)、唯(ただ)一人(ふぃちゅい)遣(や)らち、嗚呼(ああ)、心(くくる)元無(むとぅな)さぬ、我肝(わあちむ)休(やすぃ)まぬ物売(むぬう)りに窶(やつぃ)り忍(しぬ)でぃ出(ぃん)ぢる。
歌
唐(とお)大和(やまとぅ)ぬ珍(みずぃら)し物(むん)匂(にう)い鬢付(びんつぃ)き香(かば)しゃ物(むぬ) 丁子(ちょおじ)白檀(びゃくだん)甘生姜(あましょおが) 刻(きざ)み煙草(たばく)ん持(む)ちゃびいん 煙管(きしる)ん宝蔵(ほおぞお)ん持(む)ちゃびいん 其(う)ぬ他(ふか)色々(いるいる)持(む)ちゃびいん 代(でえ)ん安(やすぃ)みてぃ上(あ)ぎ有侍(やび)ら 米(くみ)とぅん粟(あわ)とぅん替(け)え有侍(やび)ん 御望(うぬず)みぬ物(むぬ)や買(こ)お遣(や)り給(た)ぼおり
村原のひや
先(ま)ずぃ、物売(むぬう)りに名付(なづぃ)き、此(ぬ)辺(ふぃん)に居(うぅ)とぅてぃ、往来(おおれえ)ぬ人(ふぃとぅ)ぬ沙汰(さた)ゆ聞(ち)かに。
泊
飛(とぅ)出(ん)ぢたる者(むぬ)や村原(むらばる)ぬ母(あや)とぅ御神一(んちゃんてぃい)つぃぬ近(ちか)や御同胞(うんぱだん)、大川(おおかわ)ぬ思(う)み子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)らんでぃ、村原(むらばる)ぬ母(あや)や、谷茶城(たちゃぐすぃく)忍(しぬ)でぃ、今(いま)討(う)ち様(よお)すぃが夫(うとぅ)ぬ村原(むらばる)、等(ねえ)斯様(かにょお)な物(むん)言遣(いや)り頼(たぬ)ってぃ居(うぅ)ん、先(ま)ずぃ一足(ちゅふぃしゃ)ん急(いす)ごお。
村原のひや
然(さ)り然(さ)り、万(ゆるづぃ)ぬ小間物(くまむぬ)持(む)っち居(うぅ)有侍(やび)ん、此(く)り此(く)り、御望(うぬず)みぬ物(むぬ)や売(う)り上(あ)ぎ有侍(やび)ら。
泊
ああ、是(くり)や幸(しやわ)しな事(くとぅ)。
村原のひや
田舎(いなか)に御通(うと)りぬ御仕度(うしたく)ぬ御様子(ぐよすぃ)、御中途(うちゅうとぅ)ぬ御用(ぐよお)、此(く)り此(く)り、又(また)此(く)りん上(あ)ぎ有侍(やび)ら。
泊
此(く)りや心(くくる)入(い)りどぅ有(や)ゆる、言(い)遣(や)りる如(ぐとぅ)北谷(ちゃたん)屋良村(やらむら)んかい越(く)しゅん、道中(みちなか)ぬ重宝(ちょおふ)幸(しやわ)しな事(くとぅ)、主(しゅう)や何処(まあ)から何処(まあ)んかい行参(いめ)が。
村原のひや
吾(わぬ)や那覇(なふぁ)若狭町(わかさまち)から、今度(くどぅ)初(はじ)みてぃ旅(たび)ぬ者(むぬ)、御急(ういす)ぢん有(や)ゆら御無心(ぐむしん)ん知(し)らん、取(とぅ)り付(つぃ)きん成(な)らん望(ぬず)み事(ぐとぅ)有(や)すぃが、旅(たび)ぬ上(ぅうぃ)ぬ御縁(ぐいん)拝(うぅが)む御情(うなさ)きに、珍(みずぃら)しい事(くとぅ)ぬ此(く)ぬ頃(ぐる)に有(あ)らば、御休(うやすぃ)みぬ内(うち)に聞(ち)かち給(たぼ)り、宿元(やどぅむとぅ)ぬ土産(みやぎ)物語(むぬがた)い為侍(しゃび)ら。
泊(独語)
儘(まま)でぃ言(い)しん様(ざあ)人(ちゅ)に急(いす)ぎば、百(むむ)確(たし)かに村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)有(や)すぃが確(しか)いとぅ見覚(みうぶ)いぬ無(ね)らん、先(ま)ずぃ口(くち)振(ふ)てぃ探(さぐ)てぃ見(ん)だな。
泊
ああ、行会(いちゃ)りば兄弟(ちょおでえ)何(ぬ)ち隔(ふぃだ)てぃぬ有(あ)が、是(くり)や余り固(くわ)返事(ふぃんじ)やっさあ、有(や)すぃが、斯(か)ん、何(ぬう)ん珍(みずぃら)しい事(くとぅ)や無(ね)らん。むむ、ああ、満納(まんな)ぬ子(くぁ)や打(う)ち殺(くる)さってぃああ、労(いたわ)し事(くとぅ)。
村原のひや
惜(あたら)しが満納(まんな)如何(いちゃ)為(し)ちゃる事(くとぅ)が。
泊
むむ、其(う)ぬ事(くとぅ)てぃわ、とお細々(くまぐま)ぬ次第(しでえ)根(にっ)から話(はな)ち聞(ち)かそ、彼(あ)ぬ城(ぐすぃく)家元(やむとぅ)今帰仁(なきじん)ぬ別(わか)り、大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ城(ぐすぃく)有(や)たすぃが百姓(ひゃくしょお)上(あ)がりぬ按司部(あじび)谷茶(たんちゃ)ぬ御前(うめ)打(う)ち滅(ふる)ぶち、今(なま)や谷茶城(たんちゃぐすぃく)んでぃ言(い)ゆん、先(ま)ずぃ事(くとぅ)ぬ起(う)くりや、谷茶(たんちゃ)が野心(やしん)企(たく)でぃ大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ国々(くにぐく)ぬ按司部(あじび)討(う)たんでぃ、有(あ)らざらん事(くとぅ)わ色々(いるいる)に言立(いた)てぃ、加勢(かしい)頼(たぬ)でぃ軍(いくさ)押(う)し寄(ゆ)したん、だあ、大川城(おおかわぐすぃく)や女按司(うぃなぐあじ)ぬ御弔(うとぅむれ)えぬ日(ふぃ)に当(あ)たてぃ、御取込(うとぅりく)みぬ最中(せえちゅう)以(む)ってぃぬ外(ふか)、火急(かちゅう)な事(くとぅ)分別(ぶんびち)成(な)らん、按司(あじ)ん大将(てえしょお)ん諸共(いくる)討(う)ち死(じ)に、大勢(てえぜえ)に無勢(ぶぜえ)力(ちから)及(うゆ)ばらん、終(つぃい)にや思(う)み子(ぐぁ)や生(い)ち捕(とぅ)らり、大将(てえしょお)村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)や逃(に)ぢ済(すぃ)まち、行方(ゆくい)知(し)らん。世界(しけ)ぬ一人者(ふぃちゅいむん)、良(い)い武士(ぶし)や素引(すんつぃ)てぃや、生(い)ち捕(とぅ)てぃ有(あ)る幼(いに)き子(ぐぁ)餌種(むんだに)子(ぐぁ)に為(し)ち、取(とぅ)り付(つぃ)てぃ降参(こおさん)為(し)みらんでぃ、其(う)ぬ思(う)み子(ぐぁ)養(な)てぃ有(あ)ん、其(う)ぬ段(だん)村原(むらばる)が聞(ち)ち付(つぃ)きてぃ、思(う)み子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)らんでぃ、村原(むらばる)ぬ母上(あや)や乳母(あんめえ)んでぃ言(い)ち、共(とぅむ)養(つぃかな)てぃ給(たぼ)おり給(たぼ)おりんでぃ、谷茶城(たんちゃぐすぃく)寄(ゆ)しりたん、ああ無茶(むちゃ)、満納(まんな)ぬ子(くぁ)泣(な)ち喰(くぁ)い物(むん)替(けえ)い人(ちゅ)、村原(むらばる)が計(はから)んでぃ、抜(ぬ)ぢゃでぃ削(ふぃ)ぢでぃ知(し)っち、此(く)ぬ際(ちわ)取(とぅ)っ付(つぃ)きゆんでぃ、幸(さいうぇ)えとぅ為(し)ち問(とぅ)い尋(だん)に掛(か)ち引(ふぃ)ち段々(だんだん)、村原(むらばる)妻(とぅじ)ん相(ええ)ん劣(うとぅ)らん抜(に)ぎた女(うぃなぐ)、言(い)ちい為(し)ちゃい色々(いるいる)様々(さまざま)ぬ返事返答(ふぃじふぃんとぅう)、扨(さ)てぃむ扨(さ)てぃむ妙(みょお)な物(むん)聞(ち)ち事(ぐとぅ)有(や)たん、為(しゅ)たすぃが村原(むらばる)妻(とぅじ)や目口(みくち)柔々(やわやわ)とぅ小萎(くしゅう)らしい顔(かあぎ)、本(ふん)ぬ無茶(むちゃ)武者(むしゃ)者(むぬ)有(や)すぃん付(つぃ)いてぃや、だあ按司(あじ)や調度(ちゃんとぅ)打(う)ち惚(ふ)りてぃ、目色(みいる)わ折(う)り布(し)ち晒(さ)ら晒(ざ)らとぅ瘴気(しょおき)や無(ね)らん、終(つぃい)にや石川(いしちゃあ)満納(まんな)ん追(う)い退(ぬ)きてぃ、颯(さっ)たる仕方(しかた)ぬ可笑(うか)しゃや、やあやあ、我(わ)が側(すば)に居(うぅ)らば女按司(うなじゃら)ん為(さ)りん、とおとお、側(すば)に居(うぅ)りゆ居(うぅ)りゆ。でぃ言(い)ちゃりば、村原(むらばる)ぬ母(あや)や、按司(あじ)ん好(すぃ)かん楽(らく)ん好(すぃ)かんんでぃ、突(つぃ)ん撥(ぱ)にん撥(ぱ)しゃん、谷茶(たんちゃ)や腹(わた)切(ち)り分(わ)ち。此(く)ぬ按司(あじ)ぬ言葉(くとぅば)。聞(ち)かならば、其方(すなた)一刀(ちゅかたな)に命(いぬち)潰(つぃ)ぶち取(とぅ)らさ。んでぃ為(しゅ)てぃ脅(うどぅ)ちゃん、腹(わた)ぬ底(すく)迄(までぃ)見済(んすぃ)まさってぃ居(うぅ)すぃや、以(む)ってぃぬ外(ふか)、村原(むらばる)ぬ母(あや)や災(じゃあ)ん無(ね)らん、殺(くる)す殺(くる)すでぃ詰(すぃい)ち掛(か)かたさ、だあ、殺(くる)しゅる意地(いじ)や少(すっとぅ)ん無(ね)らん、苦笑(にがわれ)え為(し)ち戻(むどぅ)ゆたる仕方(しかた)や、本(ふん)ぬ可笑(うかしゃ)どぅ多(うう)さる。あはは・・・・・。立場(たちば)失(うし)なてぃ咄嗟(どぅっ)とぅ散々(さんざん)な事(くとぅ)、彼(あ)んし其(う)りからや大首(ううくび)垂(た)りてぃ細(みすぃ)く聞(ち)ち分(わ)きてぃ、肝(ちむ)出(ぃん)ぢゃち死(し)ぢ行(い)ちゅる命(いぬち)救(すく)てぃ給(たぼ)おり、給(たぼ)おり、んでぃ、段々(だんだん)折(う)り倒(とお)り為(し)やつぃ時(とぅち)んや、村原(むらばる)ぬ妻(とぅじ)や下女(んざ)ぬ、夫(うぅとぅ)ぬ仏事(ぶつぃじ)打(う)ち成(な)ち御返事(うふぃじ)上(あ)ぎらぬ何(ぬ)ぬ是(くぃ)ぬんでぃ、段々(だんだん)とぅ言(い)い回(まわ)ち遣(や)りば、ああ無蔵(んぞ)再縁(せえいん)ぬ片頭(かたかしら)、明(あか)さ暗(くら)さ分(わ)からん、本(ふん)ぬ実(まくとぅ)二反(にたん)精(しい)切(ち)っち。待(ま)ちどぅ嬉(うり)し事(ぐとぅ)喜(ゆるく)びん多(うふぃ)さ俄(あた)果報(かふ)どぅ付(つぃ)ちゃる果報(かふ)な我身(わみ)や。泣(な)ち食(くぁ)い為(し)ち笑(われ)え為(し)い為(じ)い踊(うぅどぅ)り跳(は)に為(し)ち、夜(ゆ)ぬ寝(に)うしん寝(に)んだん、足(ふぃしゃ)ぬ指(ゆび)迄(まで)折(う)り返(けえ)し返(げえ)し為(しゅ)てぃ、空待(んなま)ち為(しゅ)らんでぃ思(うむ)りば、本(ふん)ぬ可笑(うか)しゃどぅ多(うふ)さる、彼(あ)んし又(また)満納(まんな)ぬ子(し)ぬ度々(たびたび)御意見(ぐいきん)御宣(うんにゅ)きらんでぃ、何目(ぬみ)ん見(ん)すぃらん掛(け)え放下(ほおか)たん、やっさ、人(ちゅ)ぬ命(いぬち)てぃらむん言(ぃゆ)んでぃどぅ為(しゅ)る、水(みずぃ)漬(つぃ)かゆすぃゆか浅(あさ)まっさ、恐(うとぅ)るしい畜生人(ちくしょおにん)、又(また)満納(まんな)ぬ子(しい)ん満納(まんな)ぬ子(しい)、思慮(あてぃしょお)ん無(ねえ)らん、何(ぬう)んでぃ其(う)り程(ふどぅ)為(しゃ)が、己(い)が身(み)からどぅ有(や)いん為(しゅ)すぃが、篤(とぅく)とぅ思(む)てぃ見(ん)でぃわ、主(しゅう)、愛々(かながな)しい肝(ちむ)ぬ厚(あつぃ)しゃ所(とぅくる)から実(まくとぅ)に満納(まんな)ぬ子(しい)どぅ有(や)ゆる。
村原のひや
むむ、士族(さむれえ)ぬ本意(ふんい)世(ゆ)ぬ中(なか)ぬ手本(てぃふん)、誠(だんじゅ)島国(しまぐに)ん沙汰(さた)ゆ為(しゅ)たる、やあやあ、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)乳母(あんめえ)とぅ二人(たい)や、如何(いちゃ)る生(い)ち成(な)りに成(な)遣(や)り居(うぅ)ゆが。
泊
やっさ主(しゅう)、家付(やあづぃ)かん犬(いん)ぬ綱(つぃな)切(ち)ちゃ様(よ)な物(むぬ)、一方(いっぷう)引(ふぃ)ち成(な)てぃ段極(だんぢや)まてぃ居(うぅ)すぃん付(つぃ)いてぃや、軈(やが)てぃ逃(に)ぎ済(すぃ)まち、討(う)ち返(けえ)さりる筈(はじ)ふぇえ話(はなし)に惚(ふ)りてぃ、日(ふぃい)や下(さ)がたり、とおっさ主(しゅう)、戻(むどぅ)てぃ来(ちゅ)る迄(までぃ)此処(くま)ん参(めえ)らば、又(また)話(はな)そおやあ、とお主(しゅう)。
村原のひや
やあやあ、日(ふぃ)ん暮(く)りてぃ居(うぅ)すぃが。彼(あ)が遠(と)屋良村(やらむら)い行(い)ちゃる事(くとぅ)やとぅてぃ急(いす)ぢ行参(いめ)が。
泊
汝(なあ)や何(ぬう)しゃる人(ちゅ)が、人(ちゅ)ぬ用事(ゆじ)問(とぅ)う由(ゆすぃ)や何処(まあ)かい行(い)かあん、彼向(かむ)てぃい。
村原のひや
細々(くまぐま)ぬ次第(しでえ)聞(ち)ち欲(ぶ)しゃゆ有(あ)すぃが、汝(ぃやあ)や何処(まあ)村(むら)ぬ何某(ぬうがし)が有(や)ゆら。
泊
其(ん)まや何処(まあ)だ有侍(やび)るが。
村原のひや
吾(わぬ)や村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)どぅ有(や)ゆる。
泊
ああ、迚(ぞお)い拝(うぅが)ん知(し)有侍(やび)らん。御母上(あやあめえ)ぬ御使(うつぃけ)え西村(にしむら)ぬ泊(とぅまり)だ有侍(やび)る、細々(くまぐま)ぬ次第(しで)御宣(うんにゅ)き有侍(やび)ら、来(ちゅう)る十日(とぅうか)や思(う)みん子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)てぃ、北面(にしむてぃ)ぬ山路(やまじ)逃(に)ぢ召(み)しぇえる筈(はじ)、其(う)ぬ御心得(うくくるい)召(み)しょおりんでぃぬ御使(うつぃけ)えだ有侍(やび)る。
村原のひや
ああ、天(てぃん)ぬ引合(ふぃちゃわ)しか、神(かみ)ぬ御助(うたすぃ)きか、とおとお、今日(ちゅう)からや互(たげ)に心(くくる)打(う)ち合(あ)わち、身(み)ぬ上(ぅうぃい)ぬ如(ぐとぅ)に気張(ちば)てぃ呉(くぃい)り、思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ち敵(かたち)討(う)ち取(とぅ)らば、其(う)ぬ御取(うとぅ)り立(た)てぃや有(あ)らん為(しゅ)むぬ、とおとお、気張(ちば)てぃ呉(くぃ)りゆ。むむ、此(く)りに思(う)み付(つぃ)ちゃる事(くとぅ)ぬ又(また)有(あ)ゆん、乙樽(うとぅたる)が思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ちからに、逃(に)ぢ忍(しぬ)ぶ時(とぅち)や疑(うたげ)え無(ね)らん、谷茶暴者(たんちゃあまやあ)や用心(ゆうじん)ん為(すぃ)らん、慌(あわ)てぃ様(さま)出(ぃん)ぢてぃ追(うぃ)い掛(か)きる積(つぃ)むり、其(う)ぬ時(とぅち)に任(まか)ち其(う)ぬ時(とぅち)に出(ぃん)ぢてぃ討(う)ち返(けえ)す御恩(ぐうん)是(くり)に極(きわ)またん、はあ斯様(かよ)な時節(じしつぃ)遅(うく)りてぃや済(すぃ)まん、急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)てぃ手組(てぃく)み為(すぃ)らに。
原国兄弟
今(なま)出(ぃん)ぢる二人(たい)や大川(おおかわ)ぬ按司(あじ)ぬ、頭役(かしらやく)為(しゅ)たる原国(はらくに)ぬ輩(ひゃあ)が兄(すぃいざ)子(ぐぁ)松千代(まつぃちゆ)、弟子(うとぅぐぁ)金松(かにまつぃ)ゆ、父親(ちちうや)ぬ事(くとぅ)どぅ、按司添前御腰立(あじすいめみくしだ)ち討(う)ち死(じ)にゆてぃやり予(か)にてぃ聞(ち)ち及(うゆ)でぃ、君親(きむうや)ぬ敵(かたち)討(う)ち取(とぅ)らんとぅ思(む)てぃ、二人(たい)命(いぬち)張(は)まてぃ出(ぃん)ぢ立(た)ちゅる内(うち)に、思(う)みん子(ぐぁ)ぬ前(めえ)どぅ敵(てぃち)ぬ生(い)ち捕(とぅ)やり、村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)釣(つぃ)ゆる謀(はかれ)えぬ有(あ)とぅてぃ、御育(うすだ)てぃゆてぃやり語(かた)り部(び)ぬ有(あ)りば、此(く)ぬ事(くとぅ)や急(いす)ぢ村原(むらばる)ぬ告(つぃ)ぎてぃ、思(う)み子(ぐぁ)ぬ前(めえ)取(とぅ)り返(けえ)ち、敵(てぃち)討(う)たんとぅ思(む)てぃ肝(ちむ)勇(いさ)み勇(いさ)でぃ出(ぃん)ぢて行(い)ちゅん。
歌
家(いい)ぬ譲(ゆず)りぬ長刀(なぎなた)うぅ 打(う)っ取(とぅ)り直(のお) しくるくるとぅ くるりくるりとぅ振(ふ)り立(た)てぃてぃ 唯(ただ)切(ち)り開(ふぃら)ち割(わ)ってぃ入(い)り 水(みずぃ)ん漏(む)らさん谷茶(たんちゃ)が首(くび)打(う)ち落(う)とぅす其(す)ぬ手並(てぃな)み 当(あ)たる者(むぬ)無(な)き其(す)ぬ威勢(いすぃい)扨(さ)てぃむ扨(さ)てぃむとぅ一声(ふぃとぅくぃい)に 敵(てぃち)や味方(みかた)ぬ目(み)うぅ覚(さ)ます
松千代
やあ、金松(かにまつぃ)ゆ、急(いす)ぢ内(うち)入(い)やり村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)拝(うぅが)ま。
金松
とおとお、急(いす)ぢ拝(うぅが)ま。
村原のひや
出(でぃ)よお来(ちゃ)る者(むぬ)や村原(むらばる)ぬ輩(ひゃあ)。ああ、実(まく)とぅ是非(じふぃ)無(な)さや我(わ)が按司(あじ)ぬ報(むく)い、天(てぃん)ぬ引合(ふぃちゃわ)しか神(かみ)ぬ御助(うたすぃ)きか、思(うむ)わずぃに武運(ぶうん)重(かさ)に重(かさ)に、散(ち)り散(ぢ)りに成(な)とぅる人々(ふぃとぅびとぅ)ん揃(する)てぃ、願(にが)た事(くとぅ)叶(かな)てぃ、誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)ゆる、やあやあ、揃(する)てぃ居(うぅ)る人数(にんず)出(でぃ)よおり出(でぃ)よおり、やあやあ、乙樽(うとぅたる)が予(か)にてぃ内通(ねえつう)が如(ぐとぅ)に、敵(かたち)討(う)ち取(とぅ)ゆる御運(ぐうん)巡(みぐ)り来(ち)てぃ、今日(ちゅう)ぬ良(ゆ)かる日(ふぃ)に立(た)ちゆ出(ぃん)ぢら。
原国兄弟
屈強(くっきゅう)な時節(じしつぃ)遅(うく)りてぃや済(すぃ)まん、片時(かたとぅち)ん急(いす)ぢ御供(うとぅむ)為有侍(しゃび)ら。
村原のひや
とおとお、手賦(てぃふ)ぬ次第(しでえ)事付(とぅづぃ)き渡(わた)さ、やあ喜瀬(きし)ぬ大屋子(ううやしい)敵(てぃち)ぬ城元(ぐすぃくむとぅ)、忍(しぬ)でぃ出(ぃん)ぢ居(うぅ)とぅてぃ、乙樽(うとぅたる)が思(う)み子(ぐぁ)奪(ば)い取(とず)やり逃(に)じる御中途(うちゅうとぅ)ぬ警護(きいぐ)念(にん)ぬ入(い)り、又(また)西川(にしちゃ)ぬ子(し)や頼(たぬ)でぃ加勢(かしい)今日(ちゅう)ぬ真夜中(まゆなか)に御城(うぐすぃく)ぬ後(うら)ぬ、山(やま)に伏(ふ)し隠(かく)り谷茶暴者(たんちゃあまやあ)が、城(ぐすぃく)立(た)ち出(ぃん)ぢてぃ城(ぐすぃく)ぬ門(じょ)閉(み)ちてぃ、大川(おおかわ)ぬ印(しるし)旗(はた)差(さ)し立(た)てぃ置(う)き、やあ瀬底(しすく)下手(しむでぃ)居(うぅ)りゃ北(にし)ぬ山道(やまみち)ぬ先(さち)に隠(かく)りとぅてぃ、谷茶(たんちゃ)ぬ暴者(あまや)が走(は)い通(とぅう)る後(あとぅ)に、道(みち)ぬ口(くち)塞(ふさ)ぢ山道(やまちみ)真(ま)ん中(なか)、走(は)い通(とぅう)る時分(じぶん)法螺(ふら)や石火矢(いしびいや)、打(う)ち鳴(な)らし鳴(な)らし島国(しまぐに)ん崩(くず)すぃ、気(ち)うぅ立(た)てぃてぃ若(む)しか谷茶暴者(たんちゃあまやあ)が、逃(に)ぢ戻(むどぅ)る時分(じぶん)唯(ただ)嘗(な)み切(ぢ)りに、討(う)ちゆ留(とぅ)みり、原国(はらくに)ぬ兄弟(ちょで)や山道(やまみち)ぬ中(なか)に、伏(ふ)しゆ隠(かく)りとぅてぃ先(ま)ずぃ、石火矢(いしびいや)法螺(ふら)うぅ、合図(えず)に躍(うどぅ)出(ぃん)ぢてぃ双方(すうふう)ぬ険阻(きんす)、中(なか)に引(ふぃ)ち包(つぃつぃ)でぃ余(あま)すな漏(む)らすな討(う)ちゆ留(とぅ)みり、やあ、泊(とぅまり)や先立(さちだ)ち遣(や)り忍(しぬ)でぃ行(い)ぢ居(うぅ)とぅてぃ、乙樽(うとぅたる)が思(う)み子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)やり逃(に)ぢてぃ、半里(はんり)程(ふどぅ)行(い)かば城(ぐすぃく)走(は)い登(ぬぶ)てぃ、逃(に)ぢ忍(しぬ)ぢ行(い)ちゅすぃ見付(んつぃ)きたんてぃやり、実(まく)とぅ段々(だんだん)とぅ高(たか)らかに告(つぃ)ぎてぃ、谷茶(たんちゃ)石川(いしちゃあ)誘(さす)出(ぃん)ぢゃちからに、北(にし)ぬ山道(やまみち)に案内者(あねえむん)為居(しょお)り。やあやあ、揃(する)てぃ居(うぅ)る人数(にんず)確(たし)かに聞(ち)ち。朋輩(ほおべえ)ぬ仲(なあか)不和(ふわ)にどぅん成(な)らば、怪我事(きがぐとぅ)ぬ基(むうとぅ)事障(くとぅさわ)りでむぬ、腹(はら)ぬ立(た)つ儘(まま)に短気(たんち)為(すぃ)るな、栄欲(ええゆく)栄欲(ええゆく)、堪忍(かんにん)題目(でえむく)どぅ有(や)ゆる。
惣人数
拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。
村原のひや
はあ、揃(する)てぃ居(うぅ)る人数(にんず)肝(ちむ)合(あ)わち居(うぅ)りば、実(まく)とう勝(か)ち戦(いくさ)疑(うたげ)えや無(ね)らん、とおとお、手配(てぃくば)りぬ通(とお)り油断(ゆだん)為(すぃ)るな、さあさあ、急(いす)ぢ立(た)ち向(ん)から、急(いす)ぢ打(う)ち立(た)たに。
歌
押(う)す風(かじ)ん涼(すぃだ)しゃ風車(かじまや)とぅ共(とぅむ)に
押(う)し連(つぃ)りてぃ互(たげ)に遊(あすぃ)ぶ嬉(うり)しゃ
乙樽
思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ち空(あ)ち間(ま)計(はか)れ遣(や)り出(ぃん)ぢ入(い)りぬ人(ふぃちゅ)に紛(まぢ)り出(ぃん)じる。
喜瀬の大屋子
喜瀬(きし)だ有侍(やび)る、御供(うとぅむ)為侍(しゃび)ら。
泊
むむにや、時分(じぶん)でえろ、城(ぐすぃく)走(は)い登(ぬぶ)てぃ谷茶(たんちゃ)誘(さすぃ)出(ぃん)ぢゃそ、然(さ)り然(さ)り大川(おおかわ)ぬ乳母(あんめえ)や思(う)み子(ぐぁ)引(ふぃ)ち取(とぅ)てぃ、北面(にしむてぃ)ぬ山道(やまみち)逃(に)ぎ召(み)しぇえ侍(び)たん。
谷茶
ああ、扨(さ)てぃん扨(さ)てぃん、やあ、石川(いしちゃあ)ぬ輩(ひゃあ)輩(ひゃあ)。
石川のひや
ふう。
谷茶
大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)盗(ぬす)でぃ取(とぅ)てぃ逃(に)ぢる。急(いす)ぢ追(う)い付(つぃ)きてぃ奪(うば)い取(とぅ)らに、さあさあ、急(いす)ぢ急(いす)ぢ。
石川のひや
やあやあ、大川(おおかわ)ぬ生(な)し子(ぐぁ)盗(ぬす)ぢ取(とぅ)てぃ逃(に)ぢる、急(いす)ぢ立(た)ち出(ぃん)ぢてぃ御供(うとぅむ)為(しょお)り。
谷茶
いや、供連(とぅむつぃ)りん要(い)らん、急(いす)ぢ急(いす)ぢ。彼(あ)りゆ彼(あ)りゆ、恩義(うんぢ)忘却(ぼおちゃく)情(なさ)き切(ち)り輩(やから)。
乙樽
やあやあ、村原(むらばる)ゆ初(はじ)み原国(はらぐに)が生(な)し子(ぐぁ)、思(う)み子(ぐぁ)御迎(うむけ)けに忍(しぬ)でぃ来(ち)い居(うぅ)ゆん、此(く)ぬ間(めえ)ぬ恩(うん)に告(つぃ)ぎる事(くとぅ)でむぬ、急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)てぃ命(いのち)取(とぅ)るな。
谷茶
いや、幸(しやわ)しどぅ有(や)ゆる、村原(むらばる)とぅ共(とぅむ)に。
乙樽
寄(ゆ)しゆらば寄(ゆ)しり、切(ち)り果(は)たち取(とぅ)らさ。
村原のひや
やあ、谷茶(たんちゃ)、欲悪(ゆくあく)ぬ報(むく)い武運(ぶうん)尽(つぃ)ち果(は)てぃてぃ、村原(むらばる)が前(めえ)に巡(みぐ)てぃ来(ち)ちゃみ。いや、逃(ぬ)がすまい。
原国兄弟
やあ、谷茶(たんちゃ)、原国(はらぐに)兄弟(ちょおでえ)が待(ま)ち受(う)きてぃ居(うぅ)すぃ知(し)っち居(うぅ)たみ。
谷茶
いや、一束(ちゅつぃか)ぬん足(た)らん推参(すぃいさん)な童(わらび)。
原国兄弟
ひゃああい。
谷茶(たんちゃ)暴者(あまやあ)や、原国兄弟(はらぐにちょおでえ)が打(う)ち取(とぅ)有侍(やび)たん。
村原のひや
兄弟(ちょおでえ)ぬ手柄(てぃがら)並(なら)ぶ者(むぬ)居(うぅ)らん。
瀬底下ごおり
神妙(しんみょお)な事(くとぅ)、神妙(しんみょお)な事(くとぅ)。
若按司
やあ、村原(むらばる)ゆ。
村原のひや
やあ、思(う)み子(ぐぁ)。
歌
ああき、夢(いみ)が有(や)ゆら
村原のひや
ああ、拝(うぅが)でぃ泣(な)く事(くとぅ)や夢(いみ)が有(や)や侍(びい)ら、過(すぃ)ぢし按司添(あじすい)ん嬉(うり)しゃ召(み)しぇら。
乙樽
やあやあ、敵(てぃち)ぬ島国(しまぐに)や花(はな)ぬ鳥心(とぅいぐくる)、思(うむ)てぃ自由(じゆ)成(な)らん、待(ま)ち兼(か)にる今日(ちゅう)や、谷茶(たんちゃ)暴者(あまやあ)が生(う)まり日(ふぃ)ゆてぃやり、世話(しわ)に取(とぅ)り掛(か)かてぃ気(き)ぬ付(つぃ)かん有(あ)りば、思(う)み子(ぐぁ)守(む)り名付(なづぃ)き逃(に)ぢ忍(しぬ)ぶ後(あとぅ)に谷茶(たんちゃ)追(う)い掛(か)きてぃ退(ぬ)がる方(かた)無(ね)らん、是(くり)迄(までぃ)ゆとぅ思(み)ば、御迎(うむけ)えに行参(いも)ち、今日(ちゅう)拝(うぅが)む事(くとぅ)や夢(いみ)が有(や)ゆら。
村原のひや
思(うむ)わずぃに予(か)にてぃ内通(ねえつう)ぬ有(あ)りば、其(う)ぬ手組(てぃぐみ)為(し)ちゅてぃ美御迎(みうんけ)え為(し)ちゃん。やあ、乙樽(うとぅたる)、女身(うぃなぐみ)ぬ上(ぅうぃい)に命(いぬち)振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ、敵(てぃち)ぬ手(てぃ)に渡(わた)る思(う)み子(ぐぁ)取(とぅ)り戻(むどぅ)ち、ああ、末代(まつぃでえ)ぬ手本(てぃふん)沙汰(さた)どぅ残(ぬく)る。
西川の子使
然(さ)り、西川(にしかわ)ぬ子(し)、使(つぃけ)えだ有侍(やびい)る、城(ぐすぃく)乗(ぬ)っ取(とぅ)り遣(や)り、其(う)り其(う)りぬ用意(よおい)美御迎(みうんけ)だ有侍(やび)る。
村原のひや
一段(いちだん)な事(くとぅ)一段(いちだん)な事(くとぅ)。ああ、思(う)みん子(ぐぁ)ん拝(うぅが)でぃ敵(てぃち)ん討(う)ち済(すぃ)まち、斯有(かにゃ)る誇(ふく)らしゃや物(むぬ)に譬(たてぃ)ららん、とおとお、元(むとぅ)ぬ御城(うぐすぃく)に美御遣(みうんつぃけ)え拝(うぅが)み有侍(やび)ら。
若按司
嬉(うり)しさ互(たげ)に踊(うぅどぅ)てぃ戻(むどぅ)ら。
村原のひや
嬉(うり)しさや踊(うぅどぅ)り跳(は)に御供(うとぅむ)為侍(しゃび)ら。やあ、喜瀬(きし)ぬ大屋子(ううやくう)、長刀(なぎなた)ゆ上(あ)げてぃ御先走(うさちば)い為(すぃ)りゆ。
歌
御世継(うゆつぃ)ぢゆ召(み)しょち元(むとぅ)ぬ御城(うぐすぃく)に
御駆(うか)き欲(ぶ)しゃ召(み)しょり玉(たま)ぬ思(う)み子(ぐぁ)