二童敵討:本文 玉城朝薫作
あまおへ
出(でぃ)よお来(ちゃ)る者(むぬ)や、屋良(やら)ぬ天(あま)ん按司(じゃな)、勝連(かつぃりん)ぬ天居(あまうい)、ああ、天(てぃん)ぬ雨風(あみかぢ)や絶(た)ゆるとぅん人(ふぃとぅ)ぬ、望(ぬず)み事(ぐとぅ)絶(て)らん、此(く)ぬ世界(しけ)ぬ習(なれ)や。ああ、汝(にゃあ)や首里城(しゅいぐすぃく)滅(ふるぶ)しば此(く)ぬ天(てぃん)ぬ下(しちゃ)や、我(わ)自由(じゆ)為(し)ち遊(あすぃ)でぃ、浮世(うちゆ)暮(く)らさ。道障(みちざわ)い為(しゅ)たる護佐丸(ぐさまる)ぬ按司(あじ)ん、首里城(しゅいぐすぃく)登(ぬぶ)てぃ、色々(いるいる)に言(い)なち、告口(こおじみ)ゆ入(い)てぃ、思(うむ)た事(くとぅ)今(なま)や護佐丸(ぐさまる)ん殺(くる)ち、生(な)し子(ぐぁ)刈(か)い捨(すぃ)てぃてぃ巣出(すでぃ)子(ぐぁ)刈(か)い捨(すぃ)てぃてぃ、肝障(ちむざわ)り無(ね)らん、道障(みちざわ)り無(ね)らん。良(ゆ)かる日(ふぃ)ゆ選(いぃ)らでぃ勝(まさ)る日(ふぃ)ゆ選(いぃ)らでぃ、首里戦(しゅいいくさ)為(すぃ)らに、那覇戦(なふぁいくさ)為(し)らに、今日(ちゅう)明(あ)きる二十日(はつぃか)、今日(ちゅう)明(あ)きる三十日(みすぃか)、良(ゆ)かる日(ふぃ)ゆ有(や)くとぅ、勝(まさ)る日(ふぃ)ゆ有(や)くとぅ、野原(もお)出(ぃん)ぢてぃ遊(あすぃ)ば、願(ぐぁん)立(た)てぃてぃ遊(あすぃ)ば。供(とぅむ)ぬ達(ちゃあ)。
供
ふう。
あまおへ
己達(うがたあ)ん知(し)ゆる、護佐丸(ぐさまる)ぬ蔓(かんだ)根葉(にふぁ)刈(か)やい置(う)きば、肝障(ちむざわ)り無(ね)らん。事障(くとぅざわ)り無(ね)らん。今日(ちゅう)明(あ)きる二十日(はつぃか)、今日(ちゅう)明(あ)きる三十日(みすぃか)、良(ゆ)かる日(ふぃ)ゆ有(や)くとぅ、勝(まさ)る日(ふぃ)ゆ有(や)くとぅ、野原(もお)出(ぃん)ぢてぃ遊(あすぃ)ば、願(ぐぁん)立(た)てぃてぃ遊(あすぃ)ば。此(く)ぬ様(よお)用意(ゆうい)為(し)召(み)しょおり。
供
拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。
歌
節々(しつぃじつぃ)が成(な)りば 木草(きくさ)でぃん知(し)ゆい
人(ふぃとぅ)に生(ぅん)まりとぅてぃ我親(わうや)知(し)らに
鶴松
護佐丸(ぐさまる)が弟子(うとぅぐぁ)鶴松(つぃるまつぃ)亀千代(かみぢゅう)。親(うや)ぬ護佐丸(ぐさまる)や勝連(かつぃりん)ぬ按司(あじ)ぬ告口(こおじみ)為(しょ)ち、親(うや)とぅ一門(いちむん)生(な)し子(ぐぁ)迄(までぃ)、探(さが)し出(ぃん)ぢゃさり殺(くる)さりてぃ残(ぬく)る二人(ふたい)わ国吉(くにし)ぬ輩(ひゃあ)が、情(なさ)き故(ゆい)、母(ふぁふぁ)ぬ懐(ふちゅくる)に隠(かく)さりてぃ、年月(とぅしつぃち)や積(つぃ)むてぃ、十二(とぅたあ)つぃ十三(とぅみ)つぃゆ。やあ、亀千代(かみぢゅう)。今日(ちゅう)や天居(あまうい)ぬ春(はる)遊(あすぃ)びでむぬ、此(く)ぬ様(よお)母(ふぁふぁ)に知(し)ら為居(しょお)ち、でぃゆでぃゆ仇(かたち)打(う)とおやあ。
亀千代
親(うや)ぬ敵(てぃち)取(とぅ)やい、縦令(たとぅい)死(し)ぢ後(あとぅ)ん、国(くに)ぬ有(あ)る迄(までぃ)や、沙汰(さた)どぅ残(ぬく)る。
鶴松
巣出(すぃだ)し母親(ふぁふぁうや)ん、聞(ち)ち留(とぅ)みてぃ給(たぼ)り。朝夕去(あやゆさ)ん寝(に)てぃん忘(わすぃ)りらん親(うや)ぬ敵仇(てぃちかたち)、今日(ちゅう)連(つぃ)りてぃ互(たげ)に討(う)たん為(しゅ)むぬ。
歌
親(うや)ぬ敵(てぃち)取(とぅ)ゆる義理立(ぢりだ)てぃゆ有(や)りば
悲(かな)し振分(ふや)かりん為(すぃ)らな成(な)ゆみ
母
生(な)し子(ぐぁ)吾(わ)ね連(つぃ)りてぃ、行(い)ち欲(ぶ)しゃどぅ有(あ)すぃが、女(うぃなぐ)生(ぅん)まりたる事(くとぅ)ぬ恨(うら)みしや。やあ、生(な)し子(ぐぁ)。親(うや)ぬ肌(ふぁだ)擦(すぃ)たる此(く)ぬ守(まむ)い刀(がたな)、今日(ちゅう)どぅ取(とぅ)らしゅむぬ、今日(ちゅう)どぅ渡(わた)しゅむぬ、肝(ちむ)に思(う)み染(す)みてぃ、油断(ゆだん)為(すぃ)るな。
鶴松
やあ、亀千代(かみぢゅう)、親(うや)ぬ敵討(てぃちう)ちや、誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)すぃが、巣出(すぃだ)し母親(ふぁふぁうや)に別(わか)るとぅ思(み)ば。
歌
此(く)ぬ従(から)が有(や)ゆら又(また)拝(うぅが)む事(くとぅ)ん
今日(ちゅう)ぬ出(ぃん)ぢ立(た)ちや定(さだ)み苦(ぐり)しゃ
鶴松
やあ、亀千代(かみぢゅう)、母(ふぁふぁ)ぬ露涙(つぃゆなみだ)思(う)み流(なが)し兼(か)にてぃ、惜(あた)ら敵仇(てぃちかたち)今日(ちゅう)や討(う)たに。
亀千代
母(ふぁふぁ)ん立(た)ち戻(むどぅ)り。何時(いつぃ)迄(までぃ)ん名残(なぐ)り袖(すでぃ)に貫(ぬ)ち留(とぅ)みてぃ、別(わか)り苦(ぐり)しゃ。
歌
生(い)ち別(わか)りでんすぃ斯(か)に苦(くり)しゃ有(あ)むぬ
荒(あ)らし声(ぐぃ)ぬ有(あ)らば我身(わみ)や如何(ちゃ)為(しゅ)が
鶴松
やあ、亀千代(かみぢゅう)、踊(うぅどぅ)い子(ぐぁ)に成(な)りや、敵(てぃち)ぬ前(め)に行(い)かば、互(たげ)に見合(みあ)わしゃい、敵(てぃち)に掛(か)から。
亀千代
胸(んに)に物(むぬ)思(うみ)ば、色(いる)に現(あらわ)りる。油断(ゆだん)為(すぃ)な互(たげ)に物思(むぬうむ)い詰(つぃ)みてぃ。
あまおへ
節(しつぃ)ん春(はる)来(く)りば、木草(きぐさ)萌(む)い出(ぃん)ぢてぃ、心(くくる)晴(ふぁ)り晴(ば)りとぅ遊(あすぃ)ぶ嬉(うり)しゃ。
供(とぅむ)ぬ達(ちゃあ)、供(とぅむ)ぬ達(ちゃあ)。
供
ふう。
あまおへ
遊(あすぃ)び遊(あすぃ)び。
供
うう。
あまおへ
ああ、今日(ちゅう)や、波(なみ)ぬ声(くぃ)ん立(た)たん、薄風(うすかぢ)ん涼(すぃだ)しゃ。一(ふぃとぅ)つぃ飲(ぬ)でぃ遊(あすぃ)ば。己達(うがたあ)ん遊(あすぃ)び。
供
拝(うぅが)ん留(とぅ)み有侍(やび)てぃ。
あまおへ
とおとお、酒(さき)ゆ酒(さき)ゆ出(だ)しょおり出(だ)しょおり。
供(三)
うう。然(さ)り、上(あ)ぎ有侍(やび)ら。
あまおへ
一(ふぃとぅ)つぃ注(つぃ)ぎ。己達(うがたち)ん、飲(ぬ)まい遊(あすぃ)び。
歌
散(ち)りてぃ根(に)に帰(けえ)る花(はな)ん春(はる)来(く)りば
又(また)ん色(いる)勝(まさ)る事(くとぅ)ぬ嬉(うり)しゃ
あまおへ
彼(あ)り見(ん)ちゃか見(ん)ちゃか。花盛(はなざか)い童(わらび)押(う)し連(つぃ)りてぃ踊(うぅ)どぅる、態(なり)風儀(ふぢ)ぬ清(ちゅ)らさ、呼(ゆ)びゆ呼(ゆ)びゆ。
供(三)
うう。ええ、童(わらび)。勝連(かつぃりん)ぬ按司(あじ)ぬ御呼(うゆ)びゆ。御前(うめえ)に出(でぃ)よおち、踊(うぅどぅ)てぃ御目掛(うみか)きり。
鶴松
踊(うぅどぅ)い子(ぐぁ)や有(あ)らん、春(はる)に浮(う)かさりてぃ、花(はな)ぬ元(むとぅ)忍(しぬ)でぃ、遊(あすぃ)でぃ暮(く)らす。
供(三)
いや、彼辺(あふぃ)な按司添(あじすい)ぬ召(み)しぇる事(くとぅ)聞(ち)かな、花盛(はなざか)り童(わらび)、命(いぬち)取(とぅ)るな。
鶴松
うう。
歌
斯如(かにゃ)る御座敷(うざしち)に御側(うすば)寄(ゆ)てぃ拝(うぅが)でぃ
我胴(わどぅ)有(や)りば我胴(わどぅ)い抓(つぃ)でぃどぅ見有侍(みゃび)る
あまおへ
ああ、清(ちゅ)らさ清(ちゅ)らさ、是(くり)ん取(とぅ)らそおよ取(とぅ)らそおよ。
供(三)
此(く)り此(く)り。
あまおへ
とおとお、注(つぃ)ぎゆ注(つぃ)ぎゆ、又(また)ん飲(ぬ)まに。
鶴松
畏(やぐみ)さん知(し)らん、吾(わん)御酌(うしゃく)取(とぅ)らに。
あまおへ
ああ、出来(でぃき)た出来(でぃき)た、とおとお、注(つぃ)ぎゆ注(つぃ)ぎゆ。花盛(はなざか)り童(わらび)酌取(しゃくとぅ)りぬ清(ちゅ)らさ、注(つぃ)ぢゅる酒(さき)迄(までぃ)ん匂(にう)いぬ萎(しゅう)らしゃ。常(つぃに)や酷(どぅ)く飲(ぬ)まん吾(わん)どぅ又(また)有(や)すぃが、今日(ちゅう)ぬ誇(ふく)らしゃに又(また)ん飲(ぬ)まに。とおとお、注(つぃ)ぎゆ注(つぃ)ぎゆ。
供(一)
我達(わすぃた)迄(までぃ)今日(ちゅう)や、誇(ふく)らしゃどぅ有(あ)ゆる。
供(二)
花(はな)に紛(まぢ)りゆる、童(わらび)年姿(とぅしすぃがた)。
供(三)
匂(にうぃ)に引(ふぃ)かさりてぃ、飲(ぬ)だる多(まぎ)さ。
おまおへ
ええ、供(とぅむ)ぬ達(ちゃあ)、又(また)ん踊(うぅどぅ)ら為居(しょ)り、見欲(みぶ)しゃ見欲(みぶ)しゃ。
供(三)
とおとお、又(また)ん踊(うぅどぅ)てぃ、御目(うみ)掛居(かきょお)り。
歌
莟(つぃぶ)でぃ居(うぅ)る花(はな)に 近付(ちかづぃ)ちゅる蝶(はべる)
何時(いつぃ)ぬ夜(ゆ)ぬ露(つぃゆ)に 盛(さか)てぃ添(す)ゆが
あまおへ
ああ、清(ちゅ)らさ清(ちゅ)らさ。ええ、供(とぅむ)ぬ達(ちゃあ)。是(くり)ん取(とぅ)らそおゆ。とお、是(くり)ん取(とぅ)らそおゆ。又(また)ん踊(うぅどぅ)ら為居(しょ)り。
供(三)
此(く)り此(く)り、又(また)ん踊(うぅどぅ)てぃ、御御目掛(みううみか)きょおり。
歌
勝連(かつぃりん)ぬ按司(あじ)や 実(だんじゅ)鳴響(とぅゆ)まりる
丈(たき)程(ふどぅ)ん姿(すぃがた) 人(ふぃとぅ)に変(か)わてぃ
鶴松
護佐丸(ぐさまる)ぬ巣出(すぃでぃ)子(ぐぁ)、知(し)ったか。天居(あまうぃ)逃(に)がすまい。
亀千代
朝夕去(あさゆさ)ん、寝(に)てぃん忘(わすぃ)りらん、親(うや)ぬ敵仇(てぃちかたち)、討(う)ち取(とぅ)たる事(くとぅ)や、夢(いみ)が有(や)ゆら。
鶴松
仇(かたち)討(う)ち取(とぅ)たる、今日(ちゅう)ぬ嬉(うり)しさや、過(すぃ)ぢし父親(ちちうや)ん、知(し)ゆらとぅ思(み)ば。やあ、亀千代(かみぢゅう)。刀(かたな)や鞘(さや)に納(うさ)み、踊(うぅどぅ)てぃ戻(むどぅ)ろおや。
亀千代
とおとお、踊(うぅどぅ)てぃ戻(むどぅ)ろおや。
歌
今日(きゅう)ぬ誇(ふく)らしゃや何(な)うぅ似(に)ぢゃな譬(た)てぃる
莟(つぃぶ)でぃ居(うぅ)る花(はな)ぬ露(つぃゆ)来合(ちゃ)た如(ぐとぅ)