銘苅子:本文 玉城朝薫作
銘苅子
出様(でぃよお)来(ちゃ)る者(むぬ)や銘苅子(みかるしい)。原(ふぁる)ぬ行(い)ち戻(むどぅ)い原(ふぁる)ぬ行(ゆ)っちぇえに、彼(あ)ぬ松(まつぃ)うぅ見(ん)りば彼(あ)ぬ川(かわ)ぬ本(むとぅ)に、天(てぃん)とぅ地(ぢ)ぬ光(ふぃちゃい)射(さ)し廻(まわ)てぃからに、芳(かば)しゃ匂(にうぃ)高(だか)さ為(し)じゃぬ事(くとぅ)無(ね)らん。肝(ちむ)不思議(ふしぢ)とぅ思(む)てぃ心(くくる)付(づぃ)ち見(ん)りば、頭毛(かしらぎ)ぬ有(あ)すぃが人間(すぃじゃ)ぬ髪(かみ)成(な)らん。今日(ちゅう)ぬ良(ゆ)かる日(ふぃ)に、傍(かたわ)らに隠(かく)り傍(かたわ)らに立(た)ちゃい、待(ま)ち受(う)きてぃ見(ん)だに待(ま)ち留(とぅ)みてぃ見(ん)だに。
歌
若夏(わかなつぃ)が成(な)りば心(くくる)浮(う)かさりてぃ
玉水(たまみずぃ)に下(う)りてぃ頭(かしら)洗(あら)わ
今日(きゅう)ぬ良(ゆ)かる日(ふぃ)や人間(すぃじゃ)ぬ目(み)ん無(ね)らん
心(くくる)安々(やすぃやすぃ)とぅ洗(あら)てぃ上(ぬぶ)ら
天女
やあやあ。如何(いちゃ)る事(くとぅ)有(あ)とぅてぃ知(し)らん思(う)み里(さとぅ)が、羽衣(はぐるむ)うぅ取(とぅ)やい何処(ま)かい行(い)ちゅが。
銘苅子
我(わ)が松(まつぃ)どぅ有(や)ゆる我(わ)が井戸(かあ)どぅ有(や)ゆる。何故(ぬゆ)でぃ羽衣(はぐるむ)うぅ掛ける掛(か)きてぃ置(う)ちゃが。
天女
里(さとぅ)や物(むぬ)知(し)らん天(てぃん)とぅ地(ぢ)ぬ情(なさ)き、振合(ふや)わちどぅ生(み)たる、松(まつぃ)ん玉水(たまみずぃ)ん、我(わ)が物(むぬ)とぅ言(ぃゆ)すぃや無理(むり)や有(あ)らに。
銘苅子
天(てぃん)とぅ地(ぢ)ぬ情(なさ)き振合(ふや)わしゅる浮世(うちゆ)、無蔵(んぞ)とぅ縁(いぃん)結(むす)でぃ互(たげ)に添(す)わに。
天女
御恥(うは)じかしゃ有(あ)てぃん言(い)やな又(また)成(な)ゆみ。御縁(ぐいん)てぃすぃ知(し)らん浮世(うちゆ)てぃすぃ知(し)らん。我身(わみ)や此(く)ぬ世界(しけ)ぬ人(ふぃとぅ)や有(あ)らん。
銘苅子
天(てぃん)ぬ雨(あみ)てぃすぃん下(くだ)てぃ水(みずぃ)成(な)ゆい、降(う)りてぃ世界(しけ)来(く)りば世界(しけ)ぬ人(ふぃとぅ)ゆ。
天女
里(さとぅ)が云言葉(いくとぅば)や此(く)ぬ世界(しけ)ぬ習(なれ)え、天(てぃん)ぬ御定(うさだ)みぬ我(わ)自由(じゆ)成(な)らん。
銘苅子
世界(しけ)ぬ教訓事(ゆしぐとぅ)や誰(た)が為(し)ちゃが初(はじ)み。天(てぃん)ぬ御定(うさだ)みどぅ世界(しけ)ぬ習(なれ)え。
天女
玉水(たまみずぃ)に惚(ふ)りてぃ飛(とぅ)び絹(ぢん)や取(とぅ)らり、今(にゃ)又(また)自由(じゆ)成(な)らん里(さとぅ)に馴(な)りら。
銘苅子
はあ、天(てぃん)ぬ引合(ふぃちゃ)わしゆ神(かみ)ぬ引合(ふぃちゃ)わしゆ。定(さだ)みたる女(うぃなぐ)我身(わみ)や又(また)居(うぅ)らん。今日(ちゅう)からや互(たげ)に契(ちぢ)る嬉(うり)しゃ。
天女
天降(あま)り為(し)ち我身(わみ)や夢(いみ)ぬ間(ま)どぅ有(や)すぃが、互(たげ)に馴(な)り染(す)みてぃ生(な)し子(ぐぁ)吾(わ)ね二人(ふたい)。やあ、思(う)み鶴(つぃる)ゆ。啜(すぃすぃ)らりぬ苦(くり)しゃ此(く)ぬ兄弟(うぃきい)連(つぃ)りてぃ、大原(うふばる)に行(い)ちゃい遊(あすぃ)でぃ戻(むどぅ)り。
おめなり
出(でぃ)かゆ思兄弟(うみきり)ゆ、大原(うふばる)に行(い)ちゃい、稲(ぃんに)拾(ふぃる)てぃ遊(あすぃ)ば粟(あわ)拾(ふぃる)てぃ遊(あすぃ)ば。
歌
よおい、よおい、泣(な)くなよお 我(わ)が按司(あじ)ぬ飛(とぅ)び御衣(んしゅ)我(わ)が按司(あじ)ぬ舞(め)え御衣(んしゅ) 六(む)つぃ俣(また)ぬ倉(くら)に 八(や)つぃ俣(また)ぬ内(うち)に 稲束(ぃんにづぃか)ぬ下(しちゃ)に 粟束(あわづぃか)ぬ内(うち)に 置(う)ち古(ふる)み為而居(しちょ)ん。置(う)ち晒(さる)し為而居(しちょ)ん 寝(に)なし起(う)ち泣(な)くな 泣(な)か無(な)りば呉(くぃ)ゆる 遊(あすぃ)ばばどぅ呉(くぃ)ゆる
おめなり
やあ、思兄弟(うみきい)ゆ。軈(やが)てぃ夜(ゆ)ん暮(く)りる急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)てぃ、涼(すぃだ)し母親(ふぁふぁうや)ぬ側(すば)に居(うぅ)らに。
天女
生(な)し子(ぐぁ)守(む)い育(すだ)てぃ居(うぅ)らんちゃい為(すぃ)りば、天(てぃん)ぬ御定(うさだ)みぬ我(わ)自由(じゆ)成(な)らん。互(たげ)に馴(な)り染(す)みてぃ生(な)し子(ぐぁ)吾(わ)ね二人(ふたい)。姉(あに)ぬ年(とぅし)読(ゆ)みば九(くくぬ)つぅに成(な)ゆい、兄弟(うぃきい)年(とぅ)し今年(くとぃし)五(いつぃ)つぃ迄(じゃでぃ)ん、居(うぅ)てぃん吾(わ)ね成(な)らん、飛(とぅ)ばんてゃい為(すぃ)りば、飛(とぅ)び絹(ぢん)や無(ね)らん、此(く)ぬ間(えだ)や居(うぅ)たん。生(な)し子(ぐぁ)云言葉(いくとぅば)に八(や)つぃ俣(また)ぬ倉(くら)に、百(むむ)隠(かく)し隠(かく)ち有(あ)る事(くとぅ)ゆ聞(ち)きば、今日(ちゅう)どぅ尋(とぅ)め着(つぃ)ちゃる吾(わね)え取(とぅ)たる。明日(あちゃ)ぬ明雲(あきぐむ)に明日(あちゃ)ぬ白雲(しらくむ)に、飛(とぅ)び乗(ぬ)やい昇(ぬぶ)ら、飛(とぅ)び乗(ぬ)やい行(い)かに。此(く)ぬ事(くとぅ)ゆ聞(ち)かば、此(く)ぬ事(くとぅ)ゆ知(し)らば、百(むむ)縋(すぃが)い縋(すぃが)てぃ、放(はな)す事(くとぅ)成(な)らん。我(わ)が生(な)し子(ぐぁ)賺(すぃか)ち急(いす)ぢ寝(に)なしみてぃ夜明(ゆあ)き白雲(しらくむ)とぅ連(つぃ)りてぃ昇(ぬぶ)ら。やあやあ、生(な)し子(ぐぁ)。今日(ちゅう)明(あ)きてぃ明日(あちゃ)や押(う)し連(つぃ)りてぃ遊(あすぃ)ば、少(いふぃ)ん片時(かたとぅち)ん急(いす)ぢ寝(に)りゆ。
おめなり
やあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ。如何(いちゃ)しがな今日(ちゅう)や母親(ふぁふぁうや)ぬ側(すば)に、少(いふぃ)ん片時(かたとぅち)ん離(はな)り苦(ぐり)しゃ。
おめけり
吾(わぬ)ん母親(ふぁふぁうや)ぬ側(すば)に寝(に)らに。
天女
やあ、生(な)し子(ぐぁ)。急(いす)ぢ寝(に)りゆ寝(に)りゆ。
天女
斯如(かにゃ)る打(う)ち苦(くり)しゃ誰(た)が為(し)ちゃる事(くとぅ)が、恨(うら)みてぃん如何(ちゃ)為(しゅ)が我肝(わぢむ)然(さ)らみ。
生(な)し子(ぐぁ)振分(ふや)かりてぃ飛(とぅ)ばんてゃい為(すぃ)りば
明日(あちゃ)や母(ふぁふぁ)尋(とぅ)めてぃ泣(な)ちゅらとぅ思(み)ば
天女
寝(に)成(な)し来居(ちゅ)る内(うち)に別(わか)りら泣(な)ちゃ為(しゅ)が。目覚(うじゅ)でぃ百縋(むむすぃが)い縋(すぃが)るとぅ思(み)ば。
歌
寝(に)成(な)し来居(ちゅ)る内(うち)に 別(わか)りら泣(な)ちゃ為(しゅ)が 目覚(うじゅ)でぃ百縋(むむすぃが)い縋(すぃが)るとぅ思(み)ば。
おめけり
やあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ母親(ふぁふぁうや)ゆ。やあ、姉上(うみない)ゆ。
母(ふぁふぁ)や居(うぅ)らん居(うぅ)らん。
おめなり
おめけり
やあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ母親(ふぁふぁうや)ゆ。やあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ母親(ふぁふぁうや)ゆ。
おめけり
やあ、姉上(うみない)ゆ、母(ふぁふぁ)や彼(あ)りゆ彼(あ)りゆ。
おめなり
やあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ兄弟(うみきい)とぅ吾(わん)捨(すぃ)てぃてぃ何処(まあ)かい行(い)ちゅが。
おめけり
吾(わぬ)ん連(つぃ)り昇(ぬぶ)らやあ、母親(ふぁふぁうや)ゆ。
天女
此(く)り迄(じゃでぃ)ゆとぅ思(み)ば飛(とぅ)びん飛(とぅ)ばりらん。生(な)し子(ぐぁ)振分(ふや)かりぬ百苦(むむくり)しや。
おめけり
やあ、姉上(うみない)ゆ。母(ふぁふぁ)や白雲(しらくむ)ぬ隠(かく)ち見(ん)らん。
歌
あきよ兄弟(うみきい)母(ふぁふぁ)や見(ん)らん
おめなり
やあ、兄弟(うみきい)ゆ。何時(いつぃ)迄(じゃでぃ)ゆ泣(な)ちゅが互(たげ)に立(た)ち戻(むどぅ)てぃ、此(く)ぬ事(くとぅ)や急(いす)ぢ父(ちち)に語(かた)ら。
おめけり
姉上(うみない)や急(いす)ぢ戻(むどぅ)り。吾(わぬ)や母(ふぁふぁ)尋(とぅ)めてぃ行(い)かん為(しゅ)むぬ。
おめなり
やあ、兄弟(うみきい)ゆ。母(ふぁふぁ)や白雲(しらくむ)ぬ隠(かく)ち自由(じゆ)成(な)らん。明日(あちゃ)や押(う)し連(つぃ)りてぃ互(たげ)に尋(とぅ)めら。今日(ちゅう)や、急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)てぃ父(ちち)に語(かた)ら。出(でぃ)かゆ出(でぃ)かゆ。
歌
兄弟(うみきい)とぅ吾(わん)や 生(ぅん)まりらん生(ぅん)まり 十(とぅ)に足(た)らん中(うち)に 十(とぅ)に満(み)たん内(うち)に 母(ふぁふぁ)に捨(すぃ)てぃらりてぃ 別(わか)りやい居(うぅ)りば 五(いつぃ)つぃ頃(ぐる)兄弟(うぃきい) 一期(いちぐ)泣(な)ち暮(く)らち 眠(にぶ)る夜(ゆ)ん寝(に)らん 頼(たゆ)る者(むぬ)放(はな)ち 互(たげ)に母(ふぁふぁ)思(うむ)てぃ 互(たげ)に泣(な)ち暮(く)らち 過(すぃ)じらりぬ苦(くり)しゃ 耐(すぃが)らりぬ苦(くり)しゃ 兄弟(うみきい)ゆ連(つぃ)りてぃ 母(ふぁふぁ)尋(とぅ)めてぃ行(い)ちゅん 足迷(あしまる)び為(すぃ)るな 爪(つぃま)転(くる)び為(すぃ)るな 此程遠(くがとぅ)迄(じゃでぃ)尋(とぅ)めてぃ 此程遠(くがとぅ)迄(じゃでぃ)着(つぃ)ちん 母親(ふぁふぁうや)や見(ん)らん 母親(ふぁふぁうや)や居(うぅ)らん 引(ふぃ)ちゅる足(あし)引(ふぃ)かりらん 肝(ちむ)暮(く)りてぃ行(い)ちゅん。
おめなり
やあ、兄弟(うみきい)ゆ。此(く)ぬ間(えだ)ぬ疲(つぃか)り足(あし)ん引(ふぃ)かりらん。目元(みむとぅ)暗々(くらぐら)とぅ成(な)るが心気(しんち)。
おめけり
やあ、姉上(うみない)ゆ、足迷(あしまる)び為(すぃ)るな急(いす)ぢ立(た)ち起(う)きり。やあ、姉上(うみない)ゆ姉上(うみない)ゆ何故(ぬが)すぃ姉上(うみない)や物言声(むぬいぐぃ)ん無(ね)らん。
銘苅子
ああ、肝(ちむ)ん肝(ちむ)成(な)らん斯(か)に苦(くり)しゃ有(あ)るい。五(いつぃ)つぃ頃(ぐる)兄弟(うぃきり)十(とぅ)に足(た)らん姉(うない)、母(ふぁふぁ)に捨(すぃ)てぃらりてぃ別(わか)りやい居(うぅ)りば、眠(にぶ)る夜(ゆ)ん寝(に)らん頼(たゆ)る者(むぬ)離(はな)ち、彼(あ)ぬ松(まつぃ)ぬ下(しちゃ)に彼(あ)ぬ井戸(かあ)ぬ本(むとぅ)に朝夕(あさゆ)行(い)ち暮(く)らち足(あし)擦(すぃ)とぅてぃ泣(な)きば、肝(ちむ)ん肝(ちむ)成(な)らん今日(ちゅう)や夜(ゆ)ん暮(く)りる。急(いす)ぢ立(た)ち寄(ゆ)やい我(わ)が生(な)し子(ぐぁ)賺(すぃか)ち連(つぃ)り戻(むどぅ)てぃ行(い)かに引(ふぃ)ち連(つぃ)りてぃ行(い)かに。やあやあ、生(な)し子(ぐぁ)。夜(ゆ)ん暮(く)りてぃ行(い)ちゅん急(いす)ぢ立(た)ち戻(むどぅ)り。
おめけり
やあ、父親(ちちうや)ゆ。巣出(すぃだ)し母親(ふぁふぁうや)や尋(とぅ)めりわん居(うぅ)らん。姉上(うみない)とぅ吾(わん)や如何(いちゃ)が為(しゅ)ゆら。
銘苅子
やあ、思(う)み鶴(つぃる)ゆ、実(だに)ゆ聞(ち)ち留(とぅ)みり。今日(ちゅう)からや明日(あちゃ)からや、母(ふぁふぁ)ぬ事(くとぅ)思(うむ)てぃ、泣(な)ちゆ又(また)為(すぃ)るな。巣出(すぃだ)し母親(ふぁふぁうや)や世界(しけ)ぬ人(ふぃとぅ)有(あ)らん。天降(あま)り為(しゃ)る女(うぃなぐ)下(くだ)り為(しゃ)る女(うぃなぐ)。天(てぃん)昇(ぬぶ)てぃからや下(くだ)る事(くとぅ)成(な)らん。成(な)らん事(くろぅ)思(うむ)てぃ泣(な)ち暮(く)らち居(うぅ)すぃや、母(ふぁふぁ)ぬ為(たみ)成(な)らん我(わあ)が為(たみ)成(な)らん。兄弟(うみきい)ゆ賺(すぃか)ち互(たげ)に生立(うぃた)ちやい、首里(しゅい)御奉公(みゃでい)為(しゅ)すぃどぅ按司(あじ)御奉公(みゃでい)為(しゅ)すぃどぅ、子(くぁあ)ぬ道(みち)でむぬ親(うや)ぬ為(たみ)やくとぅ、実(だに)ゆ聞(ち)ち留(とぅ)みてぃ肝(ちむ)に思(う)み染(す)みてぃ、今日(ちゅう)からや明日(あちゃ)からや、母(ふぁふぁ)尋(とぅ)めてぃ泣(な)くな、母(ふぁふぁ)呼(ゆ)びゃい泣(な)くな。
おめなり
やあ、父親(ちちうや)ゆ。思(う)み尽(つぃく)ち居(うぅ)てぃん此(く)ぬ世(ゆ)居(うぅ)てぃ母(ふぁふぁ)に、又(また)拝(うぅが)む事(くとぅ)ぬ成(な)らんでぃゆ有(や)りば、如何(いちゃ)し暮(く)らしゅゆが兄弟(うみきい)とぅ吾(わん)や。
銘苅子
云言葉(いくとぅば)に吾(わぬ)ん面影(うむかぢ)ぬ増(ま)さてぃ、恨(うら)みてぃん如何(ちゃ)為(しゅ)が我肝(わぢむ)然(さ)らみ。
上使
出様(でぃよお)来(ちゃ)る者(むぬ)や首里(しゅい)ぬ御遣(うつぃけ)。ああ、銘苅子(みかるしい)妻(とぅじ)や天降(あま)り為(しゃ)る女(うぃなぐ)、天(てぃん)ぬ御定(うさだ)みぬ自由(じゆ)成(な)らん有(あ)たら、五(いつぃ)つぃ頃(ぐる)兄弟(うぃきい)十(とぅ)に足(た)らん姉(うぃない)、振(ふ)り捨(すぃ)てぃてぃ今(なま)や飛(とぅ)び失(う)してぃ居(うぅ)らん。親(うや)尋(とぅ)めえ迷(まゆ)てぃ高松(たかまつぃ)ぬ下(しちゃ)に、朝夕(あさゆ)連(つぃ)り行(い)ちゃい泣(な)ち暮(く)らち居(うぅ)ん與呼(てぃやい)、首里城(しゅいぐすぃく)迄(までぃ)ん取(とぅ)い沙汰(さた)ぬ有(あ)りば、御子女(うみない)や御城(うぐすぃく)ぬ内(うち)に御育(うすだ)てぃゆ召(み)しぇん。御男子(うみきい)や程々(ふどぅふどぅ)に成(な)らば御取立(うとぅいた)てぃ召(み)しぇん。又(また)親(うや)ぬ銘苅子(みかるし)や、首里(しゅい)ぬ御位(うぃいか)給(た)び召(み)しぇん與呼(てぃやり)、此(く)ぬ御宣事(みゅんちぐとぅ)拝(うぅが)でぃ今(なま)どぅ行(い)ちゅる。高松(たかまつぃ)ぬ本(むとぅ)ん道過(みちすぃ)がらでむぬ、直(すぃ)ぐに立(た)ち寄(ゆ)やい尋(たずぃ)にやい見(ん)だに。やあやあ、銘苅子(みかるしい)。首里(しゅい)ぬ御遣(うつぃけ)どぅ有(や)ゆる。ああ、何(ぬ)う事(ぐとぅ)が有(や)ゆら。
上使
銘苅子(みかるし)が生(な)し子(ぐぁ)母(ふぁふぁ)に捨(すぃ)てぃらりてぃ、朝夕(あさゆ)親(うや)尋(とぅ)めてぃ泣(な)ち暮(く)らち居(うぅ)る事(くとぅ)や、首里城(しゅいぐすぃく)迄(までぃ)ん取(とぅ)い沙汰(さた)ぬ有(あ)とぅてぃ、世(ゆ)に変(か)わてぃ居(うぅ)りば世(ゆ)に初(はじ)み有(や)くとぅ、生(な)し子(ぐぁ)思(う)み鶴(つぃる)や、御城(うぐすぃく)ぬ内(うち)に御育(うすだ)てぃゆ召(み)しぇん。嫡子(ちゃくし)亀千代(かみぢゅう)や、程々(ふどぅふどぅ)に成(な)らば御取立(うとぅいた)てぃ召(み)しぇん。又(また)銘苅子(みかるしい)や、首里(しゅい)ぬ御位(うぃいか)給(た)び召(み)しぇん與呼(てぃやり)ぬ御遣(うつぅけ)えどぅ有(や)ゆる。
銘苅子
ああ、尊(とお)とぅ、夢(いみ)やちょん見(ん)だん百果報(むむかふ)どぅ付(つぃ)ちゃる。やあ、生(な)し子(ぐぁ)、細(みすぃ)く聞(ち)ち拝(うぅが)み。此(く)ぬ御恩(ぐうん)尊(とぅうとぅ)さや胸(んに)に思(う)み染(す)みてぃ肝(ちむ)に思(う)み留(とぅ)みてぃ、今日(ちゅう)からや明日(あちゃ)からや、打(う)ち笑(われ)てぃ遊(あすぃ)び、打(う)ち誇(ふく)てぃ遊(あすぃ)び。大原(うふばる)どぅ有(や)ゆる先(ま)ずぃ屋戸(やどぅ)んかい御使(うんつぃけ)え為侍(しゃび)ら。とおとお、果報事(かふぐとぅ)どぅ有(や)ゆる巣出事(すぃでぃぐとぅ)ゆでむぬ、押(う)し連(つぃ)りてぃ屋戸(やどぅ)に踊(うどぅ)てぃ戻(むどぅ)ら。
歌
夢(いみ)やちょん見(ん)だん百果報(むむかふ)ぬ付(つぃ)ちゃし
彼(あ)ぬ松(まつぃ)とぅ井戸(かあ)ぬ故(ゆい)どぅ有(や)ゆる
百果報(むむかふ)ぬ有(あ)りば彼(あ)ぬ松(まつぃ)とぅ井戸(かあ)や
昔(んかし)繰(く)い戻(むどぅ)ち見欲(みぶ)しゃ許(ばか)り