孝行の巻：本文　玉城朝薫作

頭取

出様（でぃよお）ちゃる者（むぬ）や、伊祖（んじゅ）ぬ大主（うふぬし）ぬ、御万人（うまんちゅ）ぬ中（なか）に、頭取（かしらどぅ）い聞（ち）ちゅる者（むぬ）どぅ有（や）ゆる。御万人（うまんちゅ）ぬ間切（まぢり）、実（だに）ゆ聞（ち）ち留（とぅ）みり。温（むる）きてぃる池（いち）に、大蛇（うふじゃ）棲（すぃ）でぃ居（うぅ）とぅてぃ、風（かぢ）ぬ音（に）ん絶（て）らん、雨（あみ）ぬ音（に）ん絶（て）らん、屋倉（やくら）吹（ふ）ち崩（くずぃ）ち、畑（ふぁる）ぬ物作（むづぃく）いん、根葉（にふぁ）枯（か）らち置（う）きば、去年（くず）今年（くとぅし）成（な）てぃや、首里（しゅい）納（うさ）み成（な）らん、那覇（なふぁ）納（うさ）み成（な）らん、御百姓（うひゃくしょ）ぬ間切（まぢり）、渇死（かつぃじ）にに及（うゆ）でぃ、御願（うにぎ）てぃる御願（うにげ）、崇（たかび）てぃる崇（たか）び、肝（ちむ）添（すぃい）てぃ立（た）てぃてぃ、肝（ちむ）揃（する）てぃ願（にげ）てぃ、時（とぅち）ぬ占方（うらかく）ん、神（かみ）ぬ御託宣（みすぃずぃり）ん十四五（じゅしぐ）なる童（わらび）、蛇（じゃ）ぬ餌食（いぃじき）飾（かざ）てぃ、御崇（うたか）びぬ有（あ）らば、御祭（うまつぃい）ぬ有（あ）らば、御宣（うんにゅ）きゃや誇（ふく）てぃ、御告（またから）や誇（ふく）てぃ、作（つぃく）る物作（むづく）いん、時々（とぅちどぅち）に出来（でぃき）てぃ、御祝事（うゆうぇぐとぅ）許（ばか）り、百果報（むむかふ）ぬ有（あ）んでぃ、御託宣（みすぃずぃり）ぬ有（あ）むぬ、心（くくる）有（あ）る者（むぬ）や、御主愛（うしゅがな）し御為（うたみ）、御万人（うまんちゅ）ぬ為（たみ）に、命（いぬち）押上（うしゃ）ぎらば、生（な）し親（うや）や実（だに）ゆ、引（ふぃ）ち同胞（はろじ）迄（じゃでぃ）ん、其（う）ぬ育（すだ）てぃ召（み）しぇる、仰（うう）すぃ事（ぐとぅ）拝（うぅが）でぃ、高札（たかふだ）に記（しる）ち、道々（みちみち）に立（た）てぃてぃ、道々（みちみち）に置（う）ちゅん。心（くくる）有（あ）る者（むぬ）や、心付（くくるづぃ）く者（むぬ）や、肝（ちむ）揃（する）てぃ拝（うぅが）み、肝（ちむ）留（とぅ）みてぃ拝（うぅが）み。高札（たかふだ）ゆ高札（たかふだ）ゆ、立（た）てぃ様（よお）りい。

供

うう。

　歌

　朝夕（あさゆ）斯（か）に苦（くり）しゃ　姉上（うみない）とぅ我身（わみ）や

　　　　　　　夢（いみ）ぬ間（ま）ぬ浮世（うちゆ）　暮（く）らし兼（か）にてぃ

男子

哀（あわ）り知（し）り召（み）しょり、姉上（うみない）とぅ我身（わみ）や、侍（さむれえ）ぬ生（な）し子（ぐぁ）、侍（さむれえ）ぬ巣出子（すぃでぃぐぁ）。父親（ちちうや）に捨（すぃ）てぃらりてぃ、一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る母（ふぁふぁ）ぬ、口稼（くちかすぃ）ぢ成（な）らん、大畑（うふばる）に行（い）ちゃい、稲落穂（ぃんにうてぃぶ）拾（ふぃる）てぃ、粟落穂（あわうてぃぶ）拾（ふぃる）てぃ、死（し）にゅる命（ぬち）救（すく）てぃ、死（し）にゅる命（ぬち）継（つぃ）ぢゃい、今日（ちゅう）迄（じゃでぃ）や暮（く）らち、今日（ちゅう）迄（じゃでぃ）や居（うぅ）すぃが、明日（あちゃ）ん又（また）知（し）らん、此（く）ぬ世界（しけ）ぬ習（なれ）や。何（ぬ）がすぃ篤（どぅく）斯如（かにゃ）る渡（わた）り苦（ぐり）しゃ。やあ、姉上（うみない）ゆ。今日（ちゅう）ん押（う）し連（つぃ）りてぃ、大畑（うふばる）に行（い）ちゃい、稲落穂（ぃんにうてぃぶ）拾（ふぃる）い、粟落穂（あわうてぃぶ）取（とぅ）らに。

女子

でぃゆでぃゆ、連（つぃ）りてぃ、大畑（うふばる）に行（い）ちゃい、稲落穂（ぃんにうてぃぶ）拾（ふぃる）い、粟落穂（あわうてぃぶ）取（とぅ）らに。

男子

神（かみ）ぬ引合（ふぃちゃ）わしに、今日（ちゅう）連（つぃ）りてぃ来（ちゃあ）ん、果報者（かふむぬ）や目（み）ぬ前（め）、有（あ）るが嬉（うり）しゃ。

女子

如何（いちゃ）る事（くとぅ）有（あ）とぅてぃ、肝（ちむ）誇（ふく）い為（しゅ）ゆが、目（み）ぬ前（め）有（あ）る嬉（うり）しゃ。吾（わん）に語（かた）り。

男子

高札（たかふだ）ぬ表（うむてぃ）、心（くくる）付（づぃ）き見（ん）りば、此（く）ぬ頃（ぐる）ぬ事（くとぅ）に、温（むる）きてぃる池（いち）に、大蛇（うふじゃ）てぃる物（むぬ）ぬ、風（かぢ）ぬ音（に）ゆ起（う）くち、御万人（うまんちゅ）ぬ間切（まぢり）、渇死（かつぃじ）にに及（うゆ）び、心（くくる）有（あ）る者（むぬ）や、肝（ちむ）ぬ有（あ）る者（むぬ）や、御主愛（うしゅがな）し御為（うたみ）、御万人（うまんちゅ）ぬ為（たみ）に、命（いぬち）押上（うしゃ）ぎらば、命（いぬち）捨（すぃ）てぃゆらば、蛇（じゃ）ぬ餌食（いぃじき）成（な）しゃい、生（な）し親（うや）や実（だに）ゆ、引（ふぃ）ち同胞（はろじ）迄（じゃでぃ）ん、御助（うたすぃ）きぬ有（あ）んでぃ、高札（たかふだ）ぬ有（あ）むぬ、やあ、姉上（うみない）ゆ。生（ぅん）まりらん生（ぅん）まり為（し）ち居（うぅ）らずぃ従（ゆい）や、迚（とぅてぃ）ん我（わ）が命（いぬち）、蛇（じゃ）ぬ餌食（いぃじき）成（な）やい、母（ふぁふぁ）とぅ姉上（うみない）や、助（たすぃ）き欲（ぶ）しゃぬ。

女子

彼如（あにゃ）る事（くとぅ）有（あ）りば誇（ふく）らしゃどぅ有（あ）ゆる。我（わ）が望（ぬず）み叶（かな）てぃ我（わ）が望（ぬず）み遂（とぅ）ぎてぃ、やあ、弟君（うみきい）ゆ。居（うぅ）てぃん役（やく）立（た）たん、女（うぃなぐ）吾（わ）ね有（や）りば、首里（しゅい）御為（うたみ）成（な）らに、母（ふぁふぁ）ぬ為（たみ）成（な）らに。弟君（うみきい）や残（ぬく）てぃ、朝夕（あさゆ）肝（ちむ）尽（つぃく）ち、一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る母（ふぁふぁ）に孝（こお）ぬ道（みち）尽（つぃく）すぃ。

男子

姉上（うみない）や少（いふぃ）ん、歳上（とぅすぃざ）どぅ有（や）りば、残（ぬく）てぃ母親（ふぁふぁうや）ぬ助（たすぃ）き成（な）ゆん。

女子

先（さち）咲（さ）ちゃる花（はな）や、先（さち）どぅ又（また）散（ち）りる。弟（うっとぅ）先（さち）成（な）しゅる道（みち）ぬ有（あ）るい。

男子

無情（むじょ）ぬ此（く）ぬ世界（しけ）に、後先（あとぅさち）ぬ有（あ）るい。花（はな）に吹（ふ）く嵐（あらし）時（とぅち）や知（し）らに。

女子

姉（あに）ぬ言（ぃゆ）る言葉（くとぅば）、他所（ゆす）に成（な）すぃ有（あ）らば、迚（とぅてぃ）ん我（わ）が命（いぬち）、捨（すぃ）てぃてぃ見（ん）しら。

男子

物迷（むぬまゆ）い為（し）ちゃみ、肝（ちむ）触（ふ）りてぃ居（うぅ）ゆみ、母（ふぁふぁ）とぅ吾（わん）捨（すぃ）てぃてぃ、何処（ま）かい行（い）ちゅが。

女子

徒（いたづぃ）らに命（いぬち）、捨（すぃ）てぃ欲（ぶ）しゃや無（ね）らん、我（わ）が言葉（くとぅば）他所（ゆす）に、成（な）しゅんちゃ事（くとぅ）。

男子

如何（いちゃ）し暮（く）らしゅゆが、後（あとぅ）に吾（わ）ね残（ぬく）てぃ、姉上（うみない）が事（くとぅ）ゆ朝夕（あさゆ）思（うむ）てぃ。

女子

やあ、弟君（うみきい）ゆ。余（あま）り篤（どぅく）泣（な）くな、互（たげ）に母親（ふぁふぁうや）ぬ、為（たみ）に思（う）み立（た）ちゅる事（くとぅ）どぅ有（や）ゆる。斯如（かにゃ）る憂（う）ち苦（くり）しゃ誰（た）が為（し）ちゃる事（くとぅ）が、捨（すぃ）てぃてぃ先（さち）成（な）たる父（ちち）ぬ恨（ら）みしゃ。

男子

姉上（うみない）ゆ別（わか）り、明日（あちゃ）からや母（ふぁふぁ）ぬ恨（うら）み事（ぐとぅ）有（あ）らば吾（わん）や如何（ちゃ）為（しゅ）が。

女子

互（たげ）に泣（な）ち暮（く）らち、他所（ゆす）有（あ）らば如何（ちゃ）為（しゅ）が。少（いふぃ）ん片時（かたとぅち）ん、急（いす）ぢ欲（ぶ）しゃぬ。やあ、姉上（うみきい）ゆ。後生（ぐしょ）ぬ旅（たび）でむぬ、母（ふぁふぁ）一目（ふぃとぅみ）拝（うぅが）でぃ、心（くくる）安々（やすぃやすぃ）とぅ別（わか）り欲（ぶ）しゃぬ。

男子

若（む）しか母親（ふぁふぁうや）ぬ知（し）らば此（く）ぬ体（から）に、思（うむ）てぃ徒（いたづぃ）らに、成（な）らば如何（ちゃ）為（しゅ）が。

女子

やあ、弟君（うみきい）ゆ。思（う）み付（つぃ）ちゃる事（くとぅ）ぬ、我身（わみ）に又（また）有（あ）ゆん。大海（うふうみ）に下（う）りてぃ、潮（しゅう）汲（く）みが與呼（てぃやり）、母（ふぁふぁ）や色々（いるいる）に、口（くち）巡（みぐ）い語（かた）ら。

男子

物（むぬ）思（う）みば色（いる）に、現（あらわ）りる浮世（うちゆ）、油断（ゆだん）すな互（たげ）に、物（むぬ）ゆ思（う）み詰（つぃ）みてぃ。

女子

やあ、母親（ふぁふぁうや）ゆ、母親（ふぁふぁうや）ゆ。今日（ちゅう）や雨（あみ）晴（は）りてぃ、波（なみ）ん又（また）無（ね）らん。大海（うふうみ）に行（い）ちゃい、潮花（しゅばな）汲（く）まに。

　歌

　波（なみ）荒（あら）さ有（あ）らば　風（かぢ）荒（あら）さ有（あ）らば

　　　　　　如何（いちゃ）し思（う）み暮（く）らち　吾（わん）や待（ま）ちゅが

女子

やあ、母親（ふぁふぁうや）ゆ。今日（ちゅう）や雨（あみ）晴（は）りてぃ、波（なみ）ん又（また）無（ね）らん。大海（うふうみ）に行（い）ちゃい、潮花（しゅばな）汲（く）まに。

母

如何（いちゃ）しがな此間（くねだ）、夢（いみ）繁（しぢ）さ有（あ）むぬ、物思（むぬみ）詰（つぃ）み為（し）ちゅてぃ、潮花（しゅばな）汲（く）みゆ。何（ぬ）がすぃ思（う）み童（わらび）、物思（むぬみ）面（づぃら）為（し）ちゅる、今日（ちゅう）や思（う）み留（とぅ）みてぃ、側（すば）に居（うぅ）りゆ。

女子

やあ、母親（ふぁふぁうや）ゆ。如何（いちゃ）しがな今日（ちゅう）や、過（すぃ）ぢし父親（ちちうや）ぬ、面影（うむかぢ）ぬ増（ま）さてぃ、忘（わすぃ）り苦（ぐり）しゃ。

母

吾（わぬ）ん又（また）今日（ちゅう）や、心切（うらち）らしゃ有（あ）むぬ、物思（むぬみ）詰（つぃ）み為（し）ちゅてぃ、潮花（しゅばな）汲（く）みゆ。

女子

やあ、弟君（うみきい）ゆ。母（ふぁふぁ）ん吾（わ）ね拝（うぅが）でぃ、残（ぬく）る事（くとぅ）無（ね）らん。明日（あちゃ）からや肝（ちむ）に、物思（むぬみ）詰（つぃ）み為（し）ちゅてぃ、遊（あすぃ）び触（ぶ）り為（すぃ）るな、友（どぅし）縺（むつぃ）り為（すぃ）るな。

男子

姉上（うみない）が居（うぅ）てぃどぅ、遊（あすぃ）び触（ぶ）り為（しゅ）たる、明日（あちゃ）からや母（ふぁふぁ）ぬ側（すば）に居（うぅ）らに。やあ、姉上（うみない）ゆ。母（ふぁふぁ）ぬ為（たみ）てぃやり、思（う）み切（ち）らん為（すぃ）りば、真（まく）とぅ別（わか）りゆる事（くとぅ）ぬ恨（ら）みしゃ。

女子

急（いす）ぢ立（た）ち戻（むどぅ）り、弟君（うみきい）が涙（なんだ）、袖（すでぃ）に貫（ぬ）ち留（とぅ）みてぃ別（わか）り苦（ぐり）しゃ。やあ、弟君（うみきい）ゆ。急（いす）じ戻（むどぅ）り、戻（むどぅ）り。

　歌

　捨（すぃ）てぃる我（わ）が命（いぬち）

男子

行（い）ちゅみ姉上（うみない）ゆ。

女子

やあ、弟君（うみきい）ゆ。露（つぃゆ）程（ふどぅ）ん思（うま）ん、明日（あちゃ）や母親（ふぁふぁうや）ぬ泣（な）ちゅらとぅ思（み）ば。

女子

やあやあ。高札（たかふだ）ぬ表（うむてぃ）、細々（くまぐま）に拝（うぅが）でぃ、蛇（じゃ）ぬ餌食（いぃじき）成（な）いが、吾（わん）や来（ちゃあ）ん。

頭取

嗚呼（ああ）、御万人（うまんちゅ）どぅ宝（たから）、御万人（うまんちゅ）どぅ黄金（くがに）、蛇（じゃ）ぬ餌食（いぃじき）成（な）いが、来（ちゃあ）み童（わらび）。

女子

捨（すぃ）てぃる我（わ）が命（いぬち）、露（つぃゆ）程（ふどぅ）ん思（うま）ん。母（ふぁふぁ）とぅ弟（うみきい）や救（すく）てぃ給（たぼ）り。

頭取

母（ふぁふぁ）とぅ弟君（うみきい）や気遣（きづぃ）きばし為（すぃ）るな。軈（やが）てぃ御育（うすだ）てぃぬ有（あ）らん為（しゅ）むぬ。とおとお、先（ま）ずぃ入（い）よおり入（い）よおり。

頭取

上地（うぃいち）時（とぅち）ぬ大屋子（うふやく）、出（でぃ）よおり出（でぃ）よおり。

頭取

花（はな）に紛（まぢ）りゆる童（わらび）年姿（とぅしすぃがた）、如何（いちゃ）し連（つぃ）り行（い）ちゅが袖（すでぃ）ぬ涙（なみだ）。

時之大屋子

如何（いちゃ）し連（つぃ）り行（い）ちゅが、吾（わぬ）ん涙（なみだ）。

　歌

　後生（ぐしょ）ぬ長旅（ながたび）や　行（い）ち欲（ぶ）しゃや無（ね）らん

　　　　母（ふぁふぁ）ぬ為（たみ）有（や）てぃどぅ　誇（ふく）てぃ行（い）ちゅる

時之大屋子

今日（ちゅう）ぬ良（ゆ）かる日（ふぃ）に、今日（ちゅう）ぬ勝（まさ）る日（ふぃ）に、吾（わん）ぬ時（とぅち）吾（わん）ぬ物知（むぬし）りぬ、御祭（うまつぃい）ゆ為（しゅ）むぬ、御崇（うたかび）ゆ為（しゅ）むぬ、此（く）ぬ童（わらび）得（いぃ）てぃ誇（ふく）り。此（く）ぬ童（わらび）取（とぅ）てぃ誇（ふく）り。思（うむ）ぢゃらや又（また）からや、風（かぢ）ぬ技（わざ）為（すぃ）るな、雨（あみ）ぬ技（わざ）為（すぃ）るな。ああ、尊（とお）と尊（とお）と。

　附。此の時、蛇が狂い出て、仕舞い有る時に、天より星が下り、四つに割れ、童の姿が　

　現れ、手に「孝感滅蛇」という四字の旗を揮（ふ）り、現れると、たちまち、蛇の体の　

　皮肉が分散して滅す。但し、南表の幕、二幅目裂け出す。

頭取

ああ、天道（てぃんとぅう）ん近（ちか）さ、神（かみ）ん有（あ）るむぬゆ、有（あ）るむぬゆ。

時之大屋子

ああ、天道（てぃんとぅう）ん近（ちか）さ、供（とぅむ）ん有（あ）るむぬでえ侍（び）る。

女子

誠（まくとぅ）有（あ）る心（くくる）、我（わ）が持（む）ちゃい居（うぅ）りば、神（かみ）ぬ御助（うたすぃ）きぬ、有（あ）るが嬉（うり）しゃ。

頭取

其（う）りゆ其（う）りゆ。親（うや）粗相（すそ）に思（うま）ん。心（くくる）有（あ）てぃからや、斯如（かにゃ）る百果報（むむかふ）ぬ、目（みい）ぬ前（め）に有（あ）ゆん。とおとお、童（わらび）、共（とぅむ）に押（う）し連（つぃ）りてぃ、此（く）ぬ事（くとぅ）や戻（むどぅ）てぃ、御主愛（うしゅがな）し天（てぃん）に、御美宣（みゅんにゅ）きてぃからや、肝（ちむ）誇（ふく）り召（み）しょち、軈（やが）てぃ御助（うたすぃ）きぬ、有（あ）らん為（しゅ）むぬ。

母

やあ、亀千代（かみぢゅう）。他所（ゆす）ぬ言（ぃゆ）る言葉（くとぅば）、今日（ちゅう）どぅ吾（わ）ね聞（ち）ちゃる。賢（さか）しゆん童（わらび）、賢（さか）し事（ぐぅとぅ）企（たく）でぃ、一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る母（ふぁふぁ）に、我肝（わぢむ）詰（つぅ）まち。

男子

姉上（うみない）が事（くとぅ）や、止（とぅ）みてぃ止（とぅ）みららん、母（ふぁふぁ）てぃやい命（ぬち）ゆ捨（すぃ）てぃてぃ。

母

生（な）し子（ぐぁ）成（な）しゃい、朝夕（あさゆ）物（むぬ）思（うま）ち、親（うや）ぬ為（たみ）てぃすぃや、無理（むり）や有（あ）らに。斯如（かにゃ）る事（くとぅ）有（あ）すぃが、一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る母（ふぁふぁ）に、何（ぬう）てぃやい百（むむ）隠（かく）し隠（かく）ち有（あ）たが。思（うみ）ば又（また）苦（くり）しゃ、賢（さか）しゆん童（わらび）、斯如（かにゃ）る事（くとぅ）企（たく）でぃ、我肝（わぢむ）詰（つぃ）まち。畜生（ちくしょ）生（ぅん）まりたみ、一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る姉（あに）ぬ、露（つぃゆ）ぬ身（み）ぬ命（いぬち）取（とぅ）たる童（わらび）。言（い）ちん徒（いたずぃ）らに、為（し）ちゃる事（くとぅ）でむぬ、温（むる）きてぃる池（いち）に、尋（とぅ）め着（つぃ）ちゃい共（とぅむ）に、蛇（じゃ）ぬ餌食（いぃじき）成（な）やい、去（い）かん為（しゅ）むぬ。

頭取

此（く）り聞（ち）ちゃみ人（ちゅ）ぬ達（ちゃ）、此（く）り見（ん）ちゃみ童（わらび）。神仏（かみふとぅき）てぃすぃん、外（ふか）に又（また）有（あ）るい、是（くり）どぅ神（かみ）有（や）ゆる、揃（する）てぃ拝（うぅが）み。御肝（うぢむ）ある御主（うしゅ）ぬ、仰（うう）すぃ事（ぐとぅ）拝（うぅが）でぃ、思（う）み童（わらび）連（つぃ）りてぃ、誇（ふく）てぃ行（い）ちゅる。やあ、彼（あ）りゆ彼（あ）りゆ。親子（うやくぁ）連（づぃ）り者（むぬ）ぬ、道障（みちざわ）い為（しゅ）ん、道障（みちざわ）い成（な）ゆん。

女子

やあ、母親（ふぁふぁうや）ゆ。

母

玉黄金（たまくがに）生（な）し子（ぐぁ）、生（い）ちち居（うぅ）たみ。

　歌

　ああきい、生（い）ちち居（うぅ）たみ。

母

やあ、生（な）し子（ぐぁ）。物迷（むぬまゆ）い為（し）ちゃみ。斯如（かにゃ）る事（くとぅ）為出（しぢゃ）ち、一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る母（ふぁふぁ）に、物（むぬ）ゆ思（うま）ち。

女子

母（ふぁふぁ）ぬ憂（う）ち苦（くり）しゃ、忍（しぬ）でぃ忍（しぬ）ばらん、我身（わみ）に引（ふぃ）ち受（う）きてぃ、助（たすぃ）き欲（ぶ）しゃぬ。

母

一人（ふぃちゅい）居（うぅ）る母（ふぁふぁ）に、朝夕（あさゆ）物（むぬ）思（うま）ち、親（うや）ぬ為（たみ）てぃすぃや、無理（むり）や有（あ）らに。

男子

やあ、姉上（うみない）ゆ。如何（いちゃ）る事（くとぅ）有（あ）とぅてぃ、生（い）ちい来（ちゃあ）が。

女子

やあ、母親（ふぁふぁうや）ゆ、やあ、弟君（うみきい）ゆ。大蛇（うふじゃ）てぃる物（むぬ）ぬ、水（みずぃ）ぬ花（はな）咲（さ）かち、火花（ふぃばな）吹（ふ）ち散（ち）らち、飛（とぅ）び付（つぃ）ちゅる内（うち）に、天（てぃん）ぬ雲（くむ）下（さ）がてぃ、空（すら）に物音（むぬうとぅ）ぬ、有（あ）んとぅ思（み）ば軈（やが）てぃ御神（うかみ）現（あらわ）りてぃ、御言葉（うくとぅば）ぬ有（あ）りば、御託宣（みすぃずぃり）ぬ有（あ）りば、火花（ふぃばな）吹（ふ）く大蛇（うふじゃ）、百屈（むむかが）み屈（かが）でぃ、雲（くむ）に成（な）てぃ失（う）してぃ、雨（あみ）に成（な）てぃ失（う）してぃ、露（つぃゆ）ぬ我（わ）が命（ぬち）や、救（すく）てぃ来（ちゃあ）る。

頭取

互（たげ）に云言葉（いくとぅば）や、言（い）やば何時（いつぃ）迄（じゃでぃ）ん、とおとお、百果報（むむかふ）ぬ目（み）ぬ前（め）に有（あ）むぬ。

母

百果報（むむかふ）ぬ有（あ）すぃや、如何（いちゃ）る事（くとぅ）有（や）ゆが。

頭取

母（ふぁふぁ）ん弟君（うみきい）ん、姉君（うみない）ん揃（する）てぃ、肝（ちむ）留（とぅ）みてぃ拝（うぅが）み、肝（ちむ）揃（する）てぃ拝（うぅが）み。御主愛（うしゅがな）し御言葉（うくとぅば）に、此（く）ぬ童肝（わらびぢむ）や、天（てぃん）に差（さ）し知（し）りてぃ、唯（ただ）成（な）らん事（くとぅ）ゆ、儘（まま）成（な）らん事（くとぅ）ゆ。天（てぃん）ぬ差（さ）し知（し）るみ、神（かみ）ぬ引合（ふぃちゃ）わしゆ。御主愛（うしゅがな）し思（う）み子（ぐぁ）、弟君（うみきい）とぅ姉君（うみない）とぅ、又（また）思（う）み童（わらび）てぃすぃん弟君（うみきい）とぅ姉君（うみない）とぅ、年合（とぅしええ）どぅ、似合（にええ）ゆ有（や）りば、弟君（うみきい）や、一粒婿（ちゅつぃづぃむく）取（とぅ）らに。姉君（うみない）や、一粒嫁（ちゅつぃづぃゆみ）取（とぅ）らに。今日（ちゅう）明（あ）きる三十日（みすか）、良（ゆ）かる日（ふぃ）ゆ有（や）りば、御祝儀事（うしゅぢぐとぅ）召（み）しぇる、御言葉（うくとぅば）ぬ有（あ）むぬ、波（なみ）ぬ声（くぃ）ん止（とぅ）まり風（かぢ）ぬ声（くぃ）ん止（とぅ）まり、母（ふぁふぁ）ん、弟君（うみきい）ん、姉君（うみない）ん揃（する）てぃ、肝（ちむ）留（とぅ）みてぃ拝（うぅが）み、肝（ちむ）揃（する）てぃ拝（うぅが）み。

母

斯如（かにゃ）る百果報（むむかふ）や、夢（いみ）やちょん見（ん）だん、我胴（わどぅ）有（や）らば我胴（わどぅ）い、継（つぃい）でぃどぅ見（み）有侍（やび）る。

やあ、生（な）し子（ぐぁ）。百果報（むむかふ）ぬ有（あ）りば、態（ゆ）くどぅ思（う）び出（ぢゃ）しゅる。捨（すぃ）てぃてぃ先（さち）成（な）たる、父（ちち）ぬ恨（ら）みしゃ。

頭取

我達（わすぃた）迄（じゃでぃ）今日（ちゅう）や、誇（ふく）らしゃどぅ有（あ）ゆる。迚（とぅてぃ）ん押（う）し連（つぃ）りてぃ御祝事（うゆえぐとぅ）始（はじ）み、踊（うどぅ）てぃ立（た）ち戻（むどぅ）ら、誇（ふく）てぃ立（た）ち戻（むどぅ）ら。

　歌

　親（うや）ぬ為（たみ）為（し）ちゃる　肝（ちむ）ぬ徒（あだ）成（な）らん

　　　　　　　　　神（かみ）ぬ御助（うたすぃ）きぬ　有（あ）るが嬉（うり）しゃ

　今日（ちゅう）ぬ誇（ふく）らしゃや　何（な）うぅ似（に）じゃな譬（たてぃ）る

　莟（つぃぶ）でぃ居（うぅ）る花（はな）ぬ　露（つぃゆ）来合（ちゃ）た如（ぐとぅ）